ここに面白い統計がある。昨年12月にルパート・マードックに買収されたウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、買収前と買収後の3ヵ月間でどのように一面の掲載記事を変えたかという調査だ(ピュー・リサーチ社)。
それによると、大きく減ったのがビジネス関連の記事。以前はニュース記事の30%近くを占めていたのが、今やその半分以下。逆に増えているのが、国際問題と政治関連の記事で、前者は20%から25%へ、後者は大統領選のタイミングも手伝ってか、何と5%から18%という大きな増加を見せている。
実はこの変化は、マードック自身が周囲に明かしていた計画と一致している。その計画とは、WSJを経済専門紙という位置づけから離陸させ、ニューヨーク・タイムズ紙に真っ向から勝負を挑める一般紙に衣替えするというものだ。
そのために、これまでのビジネス記事重視の路線を離れて幅広い記事を扱い、特に国際問題と政治に力を入れると宣言、それを実現すべく、同紙のワシントン支局の記者を増員して、同時に編集長を始め、マードックの意向にそわない編集者や記者を容赦なく辞職に追い込んできた。
WSJは一般には経済紙とされているが、実はその表現では言い尽くすことのできない特徴のあるメディアとして知られてきた。その特徴とは、経済のマクロ分析や大きなビジネス動向ではなく、ニッチな人々の日々の活動に見られる兆候をとらえて、詳細に取材したような記事が一面に掲載されていたということである。そうしたニッチな動きが世間を、ひいては経済をどのように動かしているかを探るオリジナルなアプローチが、WSJのもっとも得意とするところだったのだ。企業内部に潜入した深い追跡記事も人気だった。
ところが、マードックはWSJ買収後、編集部に対してこんなことを言っている。「一面にある変な記事は嫌いだ」「そもそも記事が長過ぎる」「ピュリッツァー賞を狙うような(高尚な)記事でなくて、みんなが読みたい記事を書け」。
マードックが所有するメディア・コングロマリット、ニューズ・コーポレーションは、アメリカではニューヨーク・ポスト、イギリスではタイムといった大衆新聞、そして放送では、アメリカのフォックス・ニューズ、イギリスのBスカイB、アジア地域のスターTVなどを傘下に擁している。明らかにタブロイド的な大衆路線を行き、「売らんかな」のセンセーショナルなヘッドラインで衆目を集め、部数や視聴率を稼ぐというのが、そのアプローチだ。