円は「世界最弱」通貨論の危うさ、トルコリラと比較した元GS著名エコノミストの真意は?Photo:PIXTA

国際経済を専門とするエコノミストの「円の実質為替レートはトルコリラを超えて世界最弱通貨」論が話題になった。すぐに内外識者から適切な論説ではないと声が上がった。もっとも論者は百も承知で議論を呼ぶ表現を使ったのだろう。彼が耳目を集めようとした真意を探ることは、円相場をきちんと理解する良い教材になる。(楽天証券グローバルマクロ・アドバイザー TTR代表 田中泰輔)

トルコリラ比較で浮かんだ
「円最弱論」の危うい構図

 円の為替レートが、世界最弱と認知されるトルコリラ(以下、リラ)を下回り、「世界最弱通貨」になったという指摘が話題となった。本稿で論じるのは、この指摘自体の正否ではなく、この指摘で耳目を集めようとする論者の真意である。

 この指摘は普段目にする名目為替レートの話ではない。実質(実効)為替レート、すなわち内外のインフレ格差が反映する部分を調整した実質レートである。ちなみに実効レートは、対ドルなど1国の通貨に対する為替レートでなく、主な国との為替レートを貿易額で加重平均したものである。

 下図のように、2014年を100として実質(実効)為替レートを見ると、円はリラを下回っている。

 すぐに内外で多くの識者が指摘したように、実質為替レートで円とリラとの優劣を比較する意味はない。それだけに、あえて別の論点を強調すべく、リラ超えの円最弱論で目を引こうとしたものに思われる。

 ただし、どんな目的でも、誤解を招き得るロジックを看過すべきではないだろう。国内にはびこる円相場への誤認識を悪化させかねない。この問題を正すことは、逆に、円相場をきちんと理解する良い教材になるだろう。

 この指摘はロビン・ブルックス(Robin Brooks)氏、米ブルッキングス研究所シニアフェローがX投稿で広めたものだ。国際金融協会チーフエコノミスト、ゴールドマン・サックスのチーフ外国為替ストラテジスト、国際通貨基金エコノミストを歴任した人物である。

 国際金融とマクロ経済の専門家である氏が、実質(実効)レートという基本を理解していないはずはない。ロジックを意図的にゆがめてまで、円をリラと対比し世界最弱と表現した真意はどこにあるのか。次ページで、探ってみたい。