昨年は、2月に表面化したグーグル問題から始まり、ジャパン・ブック・サーチ問題、アマゾンキンドルの上陸というように、本とネット、デジタルとの関係が大きく変化する兆しが表れた1年でした。本連載では、それらの動きをリアルタイムで報告してきましたが、今回はそのまとめと今年の展望についてレポートしてみたいと思います。
グーグルが提起したデジタルの本質
まずグーグル問題ですが、昨年11月に和解修正案が提出され、その中で和解の対象となる書籍が、アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアで出版されたもの(他国の出版物の場合はアメリカで著作権登録されたもの)に限定されました。その結果、日本の書籍のほとんどが和解の対象とはならなくなりました。このような修正がなされた背景には、フランス、ドイツ、日本などからの権利者、政府機関による抗議、意見表明が多数寄せられたということがあるわけですが、何とも乱暴な問題回避手段をとったという感じがします。
注意をしなければならないのは、日本の書籍が和解の対象外となったからといって、それで問題が消えたわけではないということです。すでに多くの日本の書籍がスキャンされてデータ化されており、その取り扱いについては訴訟の枠外に置かれ、グーグルと権利者との間で別個に処理しなければならなくなっています。
現段階で権利者はグーグルに申し入れれば対象書籍を削除(どうやら物理的な削除ではなく、グーグル・ブック・サーチで検索できないようにするということのようです)することができるのですが、「無断でスキャン」されたことについての解決を図ろうとするならば、グーグルに対する訴えを提起するほかはないと考えられます。
アメリカでの訴訟においても、グーグルはフェアユースを主張し、無断でスキャンしたことを合法であると争ってきました。和解条項案ではフェアユースについての判断は回避され、グーグルは従前の主張を維持しています。昨年末にフランスでグーグルを相手取った訴訟で権利者が勝訴したという報道がありましたが、「無断でスキャン」を違法行為であると考えるならば、同様に訴訟を提起するほかないということではないでしょうか。
個人的には、和解の枠組みの中で1冊あたり60ドルの「解決金」を受け取り、データの削除を要請するという方法が、もっとも法的安定性の高いものであったと思うのですが、和解案が修正されてしまった以上その方法はとれませんので、日本の権利者は権利主張の方法から考えなければならなくなったということになります。
もっとも、これまで何度も述べてきたように、問題の本質は「無断でスキャン」の損害をどう回復するか、ということではありません。グーグルの行為が「グーグル・ブック・サーチ」の中の「ライブラリ・プロジェクト」として行われたことに端的に表れているように、「ネット時代における図書館サービスと書籍市場」をどのように構築していくのか、ということこそが問題の本質だったのです。