“ミュゼ転がし”の出発点とは?

 だが、転機が訪れる。

 2015年12月、東京証券取引所第二部上場(現在はスタンダード市場)のRVH社が全株式を取得し、経営支援に乗り出したのだ。

 しかし、RVH社もミュゼの自転車操業を止め、赤字から脱することはできなかった。買収から約3年後の2019年3月期には20億1400万円の赤字に転落している。

 たまらずRVH社は2020年4月、美容家のたかの友梨氏が代表を務めるG.Pホールディングへ株式を譲渡。ミュゼの親会社はまたしても変わることになった。

 なんと2020年以降、ミュゼ運営会社の株主となり経営権を握ったのは、現在のグローバルブリッジファンドで8社目。運営会社自体も、会社分割や商号変更が繰り返されている。

 運営会社が転々と移り変わる様から、「ミュゼ転がし」という言葉まで誕生した。

 そして2023年4月に買収したのが、上田智一氏率いる船井電機HDだった。

「大手外資系生命保険会社の営業の方から話が持ち込まれたのが、事の始まりでした」

 船井電機の元取締役は、船井電機がミュゼの買収に乗り出すきっかけについて、こう証言する。

 当時のミュゼの会員数は、約430万人。このうち、アクティブ会員は150万~160万人だとされる。その会員へ脱毛器やトリマー、シェーバー、美容機器を販売していた。そこで船井電機が美容家電を開発・製造できれば、売り上げが見込めると踏んだようだ。

 テレビ事業の赤字脱却へ向けた有効な対策が見当たらず、藁をも掴む思いだった船井電機経営陣には、唯一の光明のように見えたのだろう。

 2023年4月、船井電機HDは、G・Pホールディングから、33億円でミュゼの運営会社であるミュゼプラチナムを買収した。買収資金は横浜幸銀から借り入れていた。

 船井電機という名門企業に買収されたミュゼだが、「ミュゼ転がし」は、ここで終わらなかった。むしろ、船井電機という新たな当事者を巻き込みながら、さらに大きな事件へと姿を変えていく。

(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』(ダイヤモンド社)を抜粋・編集した記事です)

片田江康男(かたたえ・やすお)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。

Key Visual by Kaoru Kurata, Manami Kanemura