Photo by Norihiro Okawa
海運業界は脱炭素燃料への移行という「エネルギー革命」に向け、歴史的な転換点を迎えている。国際海事機関(IMO)は2050年ごろまでに温室効果ガス排出ネットゼロとする目標を策定。燃料転換の模索が続く中、次世代燃料の本命とされるアンモニアのサプライチェーン構築を急ぐのが伊藤忠商事だ。連載『クローズアップ商社』の本稿では、20年にアンモニア船舶燃料事業を他社に先駆けて立ち上げた赤松健雄グリーン・イノベーション営業室長が「川下起点」の独自アプローチやライバル商社の戦略との違い、ゲームチェンジが迫る世界市場での勝ち筋を語った。(聞き手/ダイヤモンド編集部 大川哲拓)
船を起点としたサプライチェーン構築
ライバル商社との戦略の違いとは
――次世代の「ゼロエミッション燃料」として、なぜアンモニアに着目したのでしょうか。
船舶海洋部の部長代行を務めていた2019年、今後の経営計画の策定で頭を悩ませていました。船の市況は上がったり下がったりするので、安定的に収益を上げるにはどうすればいいかが課題でした。
そんなとき、出張先のロンドンで大手海運会社から「次はアンモニアの時代が来る」という話を聞きました。低炭素燃料のLNG(液化天然ガス)も、ちょうど欧州では「しょせんは化石燃料だ」といわれ始めていた頃でした。
調べてみると、メーカーもアンモニアエンジンの開発に着手していました。「これは面白いんじゃないか」と思い、翌20年からプロジェクトを開始しました。
――なぜ水素ではなく、アンモニアなのでしょう。
「液体燃料として使いやすく、かつ炭素を含まない化合物」となると、アンモニア(NH3)くらいしか存在しません。
そもそも、化石燃料は「ハイドロカーボン」といわれるように、水素と炭素の化合物です。水素を安定した状態で保つための最高のパートナーが炭素なのですが、燃やすと二酸化炭素(CO2)が出てしまいます。
水素単独で燃やせばCO2は出ませんが、船の燃料に適した液体にするにはマイナス253度まで冷却しなければなりません。
ただ、アンモニアも常温では気体なので、冷やすか圧力をかけて液体にして運ぶ必要があります。当然、輸送や貯蔵にコストがかかるので、なるべく地産地消、燃料供給する拠点の近くで生産するのが理想です。
――「川上から川下まで」のサプライチェーンを押さえにかかるというわけですか。
逆ですね。「川下から川上」に上がっていくイメージです。船舶部門の私たちは船を起点としてサプライチェーン全体の組み立てを考えています。
事業開始から6年。アンモニア燃料の生産や調達、供給インフラの整備といったサプライチェーンを構築する伊藤忠のプロジェクトは、世界初となる新造アンモニアバンカリング(供給)船の建造を経て、商業化に向けた段階へと進む。「川下」に当たる船舶を起点としたサプライチェーン構築を急ぐ伊藤忠は、新たな市場で覇権を握れるのか。次ページでは、赤松健雄グリーン・イノベーション営業室長が、同様の事業を進める住友商事などと比較した戦略の違いや、中国勢が存在感を増す世界市場での勝ち筋を語る。







