エネルギー危機、インフレ、人手不足で明暗!通期決算「勝ち組&負け組」【2026春】#1Photo by Norihiro Okawa

伊藤忠商事が2026年3月期決算の連結純利益で5年ぶりに総合商社トップの座を奪還した。しかし、資源価格の高騰を追い風に財閥系商社が猛追しており、今期(27年3月期)の純利益見通しでは業界2位に甘んじる公算が大きい。非資源分野を磨き、効率よく稼ぐ力をつけてきた伊藤忠だが、巨額の利益を生む「資源ビジネス」の壁を前に、岡藤正広会長CEOからは資源分野への積極投資を示唆する発言が飛び出した。「利は川下にあり」を掲げてきた伊藤忠にとって、方針の大転換とも取れる。特集『エネルギー危機、インフレ、人手不足で明暗!通期決算「勝ち組&負け組」【2026春】』の本稿では、各事業のROA(総資産利益率)から、商社トップ争いの構造と伊藤忠トップの悩みを解剖する。(ダイヤモンド編集部 大川哲拓)

5年ぶりの首位奪還も、今期は三菱商事が返り咲きへ
川下ビジネスの限界を露呈?…伊藤忠の苦悩

「やっぱりね、総合商社は資源やらんとあかんわ。ほんまに」「ステージを変えるような発想の投資も常に考えなあかん」――。

 伊藤忠商事の岡藤正広会長CEO(最高経営責任者)は5月8日のアナリスト向け決算説明会で資源分野に積極投資する意向を示し、業界の注目を集めている。

 その心は、2026年3月期の純利益において伊藤忠は9003億円をたたき出し、5年ぶりに業界トップを奪還したが、今期(27年3月期)は三菱商事に首位の座を明け渡す公算が大きいからだ。伊藤忠は純利益9500億円と過去最高益を見込むが、三菱商事はそれを軽々と上回る1兆1000億円を予想している。(下図参照)

 さらに、伊藤忠が目標に掲げていた純利益、ROE(自己資本利益率)、時価総額の「商社3冠」についても、あと一歩及ばなかった。25年度の前半は時価総額で三菱商事をおおむね上回っていたが、年が明けてからは銅などの資源価格の上昇や中東情勢の悪化によるエネルギー価格高騰で追い風を受けた三菱商事や三井物産に時価総額で逆転されたのである。(下図参照)

 これについて、石井敬太社長COO(最高執行責任者)は5月1日の決算会見で「残念ながら資源関係に有利な特殊要因があり、資源系に弱いうちは遅れてしまったが、トップだった時期が3分の2以上続いていた(実際には25年度の半分程度)。瞬間の3月末だけをもって時価総額とは思っていない」と、半ば“負け惜しみ”とも取れる表現で悔しさをにじませた。

 これまで岡藤会長は「利は川下にあり」を前面に打ち出し、生活消費関連などの非資源分野に注力。また、「か・け・ふ(稼ぐ、削る、防ぐ)」を掲げて効率よく稼ぐ力を磨いてきた。その結果、26年3月期の伊藤忠のROA(総資産利益率)は5.7%と、ライバル(三菱商事3.5%、三井物産4.4%)を圧倒している。

 伊藤忠が非資源にこだわり続けた背景には、過去に資源ビジネスで大失敗した“トラウマ”がある。

 古くは1960年代にさかのぼる。石油精製会社の東亜石油へ経営参画したものの、オイルショックの影響で莫大な損失を被り、85年に石油精製事業からの完全撤退に追い込まれた。近年でも、2008年に参入したメキシコ湾の油ガス田開発で数百億円の損失を出して撤退。さらに、11年に参画した米国シェールガス開発事業では累計1000億円規模の減損を計上し、15年に撤退を余儀なくされている。これらを教訓に、長らく資源への積極投資を自重してきた経緯があるのだ。

 しかし、どんなに非資源分野で地道に利益を積み上げても、資源市況に追い風が吹けば、巨大な権益を持つ財閥系商社にあっさりと逆転されてしまう現状がある。「実力では負けていないのに」「このままではどうしても勝ったり負けたりになってしまう」というもどかしさや焦燥感が、伊藤忠トップにはあるのだろう。

 今回、岡藤会長が資源分野への積極投資を口にしたことは、非資源ビジネスばかりでは成長が限界にきていることを象徴しているのかもしれない。

 そして、岡藤会長は決算説明会でそうした状況に対して「うち、あんま夢ないな」とまで表現。他の発言も含めて大転換をにおわせる“岡藤節”がさく裂した。そもそも、なぜ伊藤忠は「再び資源を」と決意せざるを得ないのか?次ページではそのジレンマを財務データから徹底解剖。決算説明会での他の岡藤発言と、突然の方針転換に対する社内からの不満の声と共に伝える。