全米に50カ所の拠点を持つラディウス・リサイクリング社全米に50カ所の拠点を持つラディウス・リサイクリング社 写真提供:豊田通商

脱炭素と地政学リスクの変動を背景に、鉄スクラップの価値が世界的に高まっている。高炉から電炉へのシフトが進み、かつて「廃材」だったスクラップは、各国が囲い込む“都市鉱山”へと変わりつつある。こうした中、豊田通商は2025年、米スクラップ大手を約1300億円で買収した。赤字企業への巨額投資は高値づかみなのか、それともEV(電気自動車)時代を見据えた資源戦略なのか。連載『クローズアップ商社』の本稿では、豊田通商が狙う「自動車循環網」の実像を追った。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)

PBR0.6倍の赤字企業に1300億円
「高値づかみ」批判に豊田通商は…

 鉄スクラップを巡る競争は、単なる原料争奪ではなくなりつつある。米国では関税強化や中国鋼材排除の動きが進み、鉄スクラップは「世界で流通する商品」から「国内で囲い込む資源」へと性格を変え始めた。

 商社業界で先行する三井物産が、鉄鉱石投資で培った資源戦略の延長線上で“都市鉱山”に布石を打つ(『三井物産“鉄鉱石の王者”が狙う「次の鉄資源」、長期低迷20年越しの反転攻勢【勃発!鉄スクラップ争奪戦/前編】参照)のに対し、豊田通商の視点はやや異なる。同社が見据えるのは、スクラップを集めて売るだけの事業ではない。自動車を起点に、鉄、非鉄、触媒、EV電池までを再び産業へ戻す「循環網」の構築だ。

 豊田通商は2025年、米スクラップ大手のラディウス・リサイクリングを約1300億円で完全子会社化した。ラディウスは北米を中心に広範な拠点網を持ち、年間480万トンのスクラップを扱う。これに対し、豊田通商グループ全体の金属スクラップ取扱量は約600万トン規模。両者を合わせると1100万トン規模に達する。今井斗志光社長は、30年代前半に世界シェアを現在の2%から5%、2500万トンへ引き上げる目標を掲げる。

 もっとも、この買収には「高値づかみ」との見方もあった。ラディウスは赤字が続き、PBR(株価純資産倍率)も0.6倍前後に低迷。それに対し、豊田通商は100%超のプレミアムを付けた。豊田通商は新規投資にROIC(投下資本利益率)10%以上を求めることで知られ、ラディウスもその水準を前提とする案件だった。

 では、何を根拠にそこまで踏み込んだのか。鍵は赤字の正体にある。ラディウスの損失の大部分は、過去の買収で生じたのれんの減損によるものだ。集荷ルートという事業の根幹は生きており、豊田通商はそこに自動車産業との接続ノウハウを注入すれば収益化できるとみた。

 今井社長は4月30日の26年3月期決算会見で、買収後のラディウス単体について「7億円の黒字に回復させた」と説明した。今期は2桁億円、来期には3桁億円規模の黒字化を見込むという。豊田通商はCEO、CFOを刷新し、日本から副CEOを派遣。コスト削減やガバナンス見直しを進め、収益体質の改善を急いでいる。

 ただ、スクラップ事業は鉄鉱石権益のような長期資源投資とも異なる。品質調整や物流、顧客ごとの契約管理など、日々のオペレーションが収益を左右する。1300億円を投じたラディウス買収も、ここからが本当の勝負になる。

 次ページでは、この買収の背後にある50年以上かけて豊田通商が築いてきた自動車リサイクル網と、EV電池回収まで見据えた資源循環戦略を探った。