IHSグローバル主席アナリスト。1985年東京エレクトロン入社。1996年から2004年までABNアムロ証券、リーマンブラザーズ証券などで産業エレクトロニクス分野のアナリストを務めた後、富士通に転職、半導体部門の経営戦略に従事。2010年より現職で、二次電池をはじめとしたエレクトロニクス分野全般の調査・分析を担当。
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シェール革命以前まで、不足する電力と世界的な省エネ社会に貢献するため、蓄電池産業には世界から熱い視線が注がれてきた。電池業界各社は一刻も早い実用化へ向けて、開発投資を積極的に行なってきた。電池こそ、まさに「次世代のキーデバイス」として、エネルギー界の“主役”として認識されていたのだ。
ところが、シェール革命によって、一気に風向きが変わってしまった。わざわざ、コストの高い大型の蓄電池を設置しなくてもよいほど、安価なシェールガスを原料としたコストの安い電力が大量に生産される社会が現実となりつつあるからだ。シェールオイルも大量に生産され、もはや割高な電気自動車(EV)を無理して買う必要性も、環境に貢献しなければという使命感も薄れてしまった。シェール革命によって、電池は表舞台から引きずり降ろされてしまったのだ。
アメリカでは次々と電池関連企業の経営が傾き、業界も衰退している。しかし、依然として電池は将来的なキーデバイスであることに変わりはない。シェール革命によって大きく揺さぶられている電池業界は、今後どのように変化し、成長していくのだろうか。
強烈な逆風で倒産相次ぐ
米国発の電池ベンチャー
まず、簡単に電池業界の数年を振り返ってみよう。
2009年1月、オバマ大統領は就任直後の看板政策として「グリーン・ニューディール」を打ち出し、太陽光や風力などの自然エネルギー活用、さらにはEVの普及などを目指してきた。10年間で1500億ドルを投資してクリーンエネルギーの開発を推進し、EVおよびPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)を2015年までに100万台導入する、といった目標が掲げられた。
しかし、大量の補助金交付を行ったものの、12年10月にはリチウムイオン電池メーカーのA123システムズが破綻、今年5月にはEVメーカーのコーダ・オートモーティブが倒産した。EV普及のために「給電スタンドで電池ごと交換する」という事業を推進してきたベタープレイスも、会社を清算する手続きを申請した。さらにはA123システムズから電池を購入していたEVメーカーのフィスカー・オートモーティブも、A123システムズの破綻以降は生産活動を停止しており、倒産の危機に直面している。