志賀見聞録 自動車産業の半世紀とミライ発売直前で開発中止となったソニー・ホンダモビリティのEV「アフィーラ」。写真は年初開催の「CES」で登壇する同社の川西泉社長 Photo:Bloomberg/gettyimages

ソニー・ホンダモビリティの電気自動車(EV)「アフィーラ」の開発中止が決まった。鳴り物入りで始まった大型協業は、なぜ行き詰まったのか。連載『志賀見聞録 自動車産業の半世紀とミライ』の第8回【ミライ編3】では、かねて異業種タッグの難しさを問うていた筆者に対し、同社の川西泉社長はどう応じていたのか。単なる戦略の誤算では済まされない構造的課題の本質に迫る。(日産自動車元COO〈最高執行責任者〉 志賀俊之)

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>>第6回【ミライ編1】ホンダがEV戦略見直しで「2.5兆円損失」を発表した日(2026年3月12日)から読む

アフィーラ開発中止が突き付けた
異業種連携の急所とは

 ホンダが最大2.5兆円の損失を計上するーー。その衝撃が冷めやらぬ中、追い打ちをかけるように、ソニー・ホンダモビリティ(ソニーグループとホンダの合弁会社)が電気自動車(EV)「アフィーラ」の開発・発売中止に踏み切ったとの報が飛び込んできた。

 応援してきただけに、正直、ショックは大きく残念でならない。

 ソニーが2020年、米ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES」でEV「VISION-S」を披露して以来、私はその動きを追い続けてきた。

 理由は明白だ。日本の自動車産業が、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化の四つの技術トレンド)の時代においても競争力を維持し、「100年に1度」の大変革を乗り越えるには、決定的に不足しているソフトウエアの開発力を引き上げる必要がある。しかしながら、それを自前主義で完結させるのは極めて難しい。このままでは熾烈な競争に勝てない。

 一方で、日本にはソフトウエアに強みを持つ企業が数多く存在する。その筆頭がソニーだ。EVや自動運転、コネクテッドに不可欠な要素技術を有しているソニーがクルマ開発に踏み出した「VISION-S」は、まさに“時代の転換点”を象徴するコンセプトカーだった。

 ただし、クルマはソフトウエアだけでは完成しない。開発には長年にわたり磨き上げられてきたハードウエアとの擦り合わせ技術も必要である。その空白をどう埋めるのかーー。そう考えていた矢先、22年にホンダとの合弁計画が発表された。

 両社の強みを融合し、さらにソニーの映像やゲームといったコンテンツをクルマに取り込めば、中国の新興EVメーカーが先行する「車内空間の価値」においても、新たなトレンドを創出できる。そう確信し、私は大いに期待した。

 それでも、拭い切れない違和感もあった。

 従来の自動車開発では、ハードが主役で、ソフトはハードの性能を制御する“脇役”にすぎなかった。だが、CASEの時代に入り、その主従は逆転した。開発はソフトウエアファーストへと移行し、両者の関係はむしろ「水と油」に近づきつつある。

 この摩擦は、すでに自動車メーカー各社の内部でも日常的に起きている。ならば、異業種の2社が組む合弁会社では、その摩擦をうまくマネージできるのかーー。それが、私の直感的な懸念だった。

 だからこそ私は、ソニー出身でソニー・ホンダモビリティ社長兼COO(最高執行責任者)を務める川西泉さんに、この疑問を真正面から、ぶつけてみた。