利益が出ていると値上げができない?
総括原価方式が抱える制度の限界
前述のように、総括原価方式においては、上限運賃は総収入が総支出(総括原価)を超えないように設定する。ただし、これは認可時の収支見積もりに基づくものであり、実際の収入が想定を上回ることまで禁止するものではない。営業努力によって収入が増加した場合、その差額は鉄道事業者のインセンティブとなる。
デフレ、低金利時代を背景に、大手鉄道事業者は1990年代後半以降、消費税率改定などを除き、運賃改定をほとんど行わなかった。一方、運輸収入は2000年代に入って増加に転じたことから、各社が鉄道事業で一定の利益を積み上げてきたことは事実だ。
そこを襲ったのがコロナ禍だ。旅客数は激減。また、2020年代に入って物価・人件費上昇傾向が強まったことで、四半世紀ぶりの運賃改定ラッシュが始まった。JR各社では、2023年5月にJR四国、2025年4月にJR北海道とJR九州、2026年3月にJR東日本が運賃改定を行っている。
一方、JR東海とJR西日本は今のところ上限運賃の改定を行っていない。JR西日本は2030年度までに運賃改定を実施する意向を示しているが、JR東海は現行制度で値上げは困難であること、つまり、総括原価方式において総収入が総支出を上回っていることを認めている。
だが、総括原価方式のもと利益を食い潰すまで運賃の値上げが認められないのであれば、サービス向上のための継続的・安定的な投資が不可能になる。現状では上限運賃の改定は不可能なので、「のぞみ」の特急料金を上限まで引き上げるというのが、今回の料金改定だ。
だが、インフレは今後も進行する。「のぞみ」料金の引き上げは一回限りの窮余の策であり、さらなる費用増には対応できない。既に値上げを実施したJR各社も無関係ではない。運賃改定には審査を含めて時間がかかり、インフレに即応できない。
JR東海はJR各社と連携し、インフレによるコスト増を柔軟かつ簡便に運賃・料金に反映できる制度の導入、新幹線自由席特急料金の届け出化など、運賃制度の改正に向けて関係箇所へ働きかけていきたいと述べる。







