こうして中国が「世界の工場」ともてはやされて、破竹の勢いで日本企業の投資が相次ぐ時代に形成された「第2工場構想」が実現されない場合、不動産全体、すなわち土地使用権も工場建物所有権も譲渡することができず、換価価値ゼロのリスクに直面することになるのです。
この問題を克服する実務的対処方法は、管轄の国土資源局に土地使用権と工場建物所有権をセットで比較的穏当な価格で引き取ってもらうことです。ただし、この方法が実施できるのは管轄の国土資源局がそうして引き取った不動産をもっと高値で第三者に払い下げることができる見込みのある場合に限定されます。具体的には、中国の子会社の不動産が市街地にあり、近隣に住宅がつぎつぎ建築されるなど住宅地化が顕著である場合、低層利用の工場敷地を安価で引き取れば、高層マンション用地として不動産開発業者に高額で払い下げることができます。この場合、地方のGDP成長に貢献できますから、この方法が利用可能となるわけです。
しかし、相当な田舎で工場を建設したために近隣の都市化が遅れていたり、将来的に土地の価格の下落基調が顕著になる場合に、管轄の国土資源局は義務もないのに引き取ってはくれないでしょう。そもそも国土資源局には払い下げ条件に違反する事実を理由として国有土地使用権を無償で回収する権限すらあるのですから。こうして清算型撤退には不動産価格のゼロ化のリスクが伴うことになります。
ゼロ化どころかマイナスが発生する可能性も!
以上は、不動産価格のゼロ化のリスクに関してですが、それ以上に怖いリスクもあります。
上海市閔行区において、前述した「都市不動産管理法」に基づいて、約束された開発期限から1年が経過しても着工・開発しない土地について、土地使用権払い下げ金の20%を土地放置費として徴収され、その後さらに1年が経過しても着工・開発しない場合は、土地使用権が取り消された(没収された)のです。全国的にもこの事例だけでなく、他にも一定数あると思われます。払い下げを受けた土地を開発しない場合、土地放置費を徴収されることによって、ゼロ化にとどまらず、マイナスが発生するリスクまで出てきたわけです。
今のところ国土資源局による没収にあたり、土地使用権上の邪魔な工場建物を取り壊し、原状回復を図るように命じる明確な法令は見当たりませんが、国土資源部が発布する土地使用権払い下げ契約の雛形には、払い下げを受ける企業の原因により建設を終了し土地を返還する場合には、原状回復を要求できる条項が含まれています。そのため、締結済みの契約の具体的な条項や今後の法整備状況によっては、不動産価格のゼロ化懸念を超えて、多額の持ち出しまで余儀なくされる可能性が高いため注意が必要です。
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