新刊『これからの中国ビジネスがよくわかる本』のダイジェストをお伝えする本連載では、前回から“撤退時に留意すべきリスク”を紹介しています。中国ビジネスから撤退すべきか継続すべきか悩む場合に、まずは、撤退に伴うリスクを明確に認識しておくべきだからです。前回取り上げたのは、なかでも最大級のリスクといえる労働法に関する経済補償リスクについてでした。そのほかにも、税関法、税法、消費者保護との関係などでさまざまな撤退リスクがありますが、詳細は新刊書に譲って、本連載ではもうひとつ不動産法に関するリスクをご紹介しておきます。
清算型撤退を採用する場合、帳簿上の不動産価格がなんとゼロ化する恐れがあります。撤退に伴う特別損失の見込みを大きく狂わせる原因となりますので、ぜひ事前の確認が必要です。
中国の経済は、1992年共産党の政策として、1993年憲法レベルで社会主義市場経済が導入されたことにより、資本主義化傾向を強めています。しかし、土地は相変わらず社会主義的であって、市街地および農民集団所有以外のすべての土地所有権は国有を中心とし、補助的に郊外において農民集団所有が認められるだけです(土地公有制)。
したがって、中国の子会社は土地所有権を持つことができず、中国政府の一部である各地の国土資源局と国有土地使用権払い下げ契約を締結して、払い下げ金を納付することにより、国有土地使用権の保有が認められるだけです。この国有土地使用権は日本でいう定期借地権のようなもので、中国の子会社は一定の期間(工業用であれば最長50年)内はこの権利に基づいて払い下げ条件で認められた利用(工場を建設するなど)ができます。この国有土地使用権は賃貸や抵当権設定のほか、第三者へ譲渡することも可能であるとされます。
しかし、実際には清算型撤退を行う場合、国有土地使用権を譲渡しようとしても、管轄の国土資源局が認めてくれないために、譲渡できなくなることが多々あるのです。国有土地使用権の譲渡が否定されると、これに基づく工場建物の所有権も譲渡できなくなるので、不動産を換価できず、結果として不動産価格がゼロ化するリスクに直面します。この場合、帳簿上の不動産価格相当額が清算型撤退に伴う特別損失になってしまいます。