電力システム改革が本格的に進み始めている。硬直化し、複雑化した電力市場を、開かれた活力ある市場に生まれ変わらせるには、どのような施策が必要なのだろうか。電力システム改革の本質を前編、後編に渡って考えていく。
従前の電力システムの課題
日本総合研究所創発戦略センターシニア・マネジャー。1969年生まれ、93年3月京都大学人間環境学研究科修了、01年5月テキサス大学経営大学院修了。外資系コンサルティング会社、不動産投資ファンド、エネルギー関連アドバイザリー会社を経て、09年2月より現職。
電力システム改革の本質は「権限構造再構築」であるといえる。地域独占構造で電力会社に集中してきた権限を、今後どのように配分していくのかが、制度設計における肝となる。
まず、現在の権限構造がどのような構造になっているか、またそこにはどのような問題があったのか、簡単に振り返ることから始めよう。
1951年以来60年間、日本では全国10地域で完結したシステムで電力事業が運営されてきた。北海道と東京を結ぶ北本連系線のような限られた容量の地域間連系線を除けば、送配電網は各地域で完結していた。
地域間の相互不可侵を原則として、地域の需要に合わせて地域毎に発電所が建設され、必要最低限の融通を行うという電力事業構造となっていた。この地域完結型の電力システムの下で、地域電力会社による地域独占が続いてきた。
ところが、東日本大震災、福島第一原子力発電所事故を契機に、電力供給不足の下での需給調整や多様なエネルギー源の活用などについて、従前の電力システムでは限界があることが明らかになった。東日本と西日本の50Hzと60Hzの問題や北海道と本州における地域間連系の不足など、緊急時に地域間で機動的に電力を融通する仕組みが整備されておらず、地域をまたいで電力を供給するシステムを目指すという発想そのものがなかったのだ。
また、熱や再生可能エネルギーなどの地域資源を活用して、自治体地域レベルでエネルギーを確保する仕組みも存在していなかった。電力はあくまで、電力会社から消費者に与えられるものであり、自治体地域レベルには、エネルギーを管理する権限はシステム上、存在していなかった。
そこで政府は、東日本大震災後、エネルギー政策をゼロベースで見直していくことを表明し、再生可能エネルギーの導入を加速させるとともに、電力の安定供給の確保、電気料金の抑制、消費者の選択肢や事業者の事業機会の拡大に向けた電力システム改革に取り組む方針を2013年4月に閣議決定している。