2013年3月、兵庫県小野市で成立した「小野市福祉給付適正化条例」には、近隣住民の目によって「生活保護費でパチンコ」といった問題を解決し、同時に、生活保護の申請に至らずにいる生活困窮者を支援するという内容が含まれていた。条例を提案・賛成する立場からは期待が高く、同時に「相互監視の制度化か」といった批判も大きかった。
同条例は4月1日に施行されている。半年後の現在、同条例はどのように運用され、どのような効果を挙げているであろうか?
今回と次回は、小野市に生まれ育ち現在も在住している1人の男性の肉声とともに、小野市と同条例のその後を紹介する。
“そんな条例、あったっけ?”状態の
「小野市福祉給付等適正化条例」
2013年3月27日、兵庫県・小野市議会で、過去に類例のなかった条例が成立した。名称を「小野市福祉給付等適正化条例(以下、「適正化条例」)」という。
内容は、第一条「目的」を見れば明白だ。
さらに、市民および地域社会の構成員に対して、
「要保護者を発見した場合は市又は民生委員にその情報を提供するものとする」
「偽りその他不正な手段による疑い又は給付された金銭をパチンコ、競輪、競馬その他の遊技、遊興、賭博等に費消してしまい、その後の生活の維持、安定向上を図ることに支障が生じる状況を常習的に引き起こしていると認めるときは、速やかに市にその情報を提供するものとする」
という責務が規定されている。
本連載では過去2回にわたり、この小野市・適正化条例について問題点をレポートした(政策ウォッチ編・第18回 、政策ウォッチ編・第19回)。賛成・反対とも大きな反響を引き起こした適正化条例は、その後、小野市の地域住民から、どのように受け止められているのだろうか?
Photo by Yoshiko Miwa
「もう、ほとんど忘れられてますよ。『ああ、そんな条例、あったっけ?』という感じです。みんな、そんな見張って通報するほどヒマじゃないですから」
そう語るのは、小野市で生まれ育ち、現在も小野市に在住している田中勝尚さん(仮名・40歳)だ。では、すぐに忘れられてしまうような条例が、なぜ成立してしまったのだろう?
「市長の売名行為です。他に何もありません」(田中さん)
まずは、田中さんの話を通して、小野市がどのような場所であるのか想像してみよう。