景気拡大とともに設備投資を拡大してきた自動車、電機、機械などは、世界同時不況の影響で、需要の急な減少に見舞われ、生産能力が余る供給過剰に陥っています。
経済産業省の鉱工業指数で見ると、工場稼働率(季節調整済指数:2005年の数値を100)は、2008年9月は101.7だったものが、10月97.7、11月88.5、12月78.1、2009年2月には60.5まで下がっています。このため、09年3月までに供給過剰の解消を急いだ製造業は、国内工場を相次いで閉鎖しました。4月時点でも67.2とやや戻し、5月では72.6と回復しているのは、工場閉鎖の結果も反映しているのでしょう。
1990年代のバブル崩壊後でも、設備過剰が問題になりましたが、このときは設備過剰の解消に10年かかりました。設備過剰のほか、債務過剰、雇用過剰の3過剰が問題になったことが思い出されます。バブル期と異なる点は、債務過剰が問題になっていないことです。
今回は、企業が陥りやすい設備過剰を引き起こす「計数のワナ」の一つを検証してみましょう。
規模拡大による
固定費の削減効果
前回のテーマ「低価格戦略を実現するための、コスト削減のポイントは?」で詳しく触れませんでしたが、規模拡大によるコスト削減効果(規模の経済)は、良く知られた低価格実現のために必要な考え方です。これを簡単な事例で確認してみましょう。
ある自動車部品の中小製造業では、大手自動車メーカー向けの部品を製造しています。月次の原価実績は(表1)の通りです。昨年の世界同時不況により、月間生産可能量40000個ですが、実績はその62.5%の月間25000個になっています。さらに1個80円で販売してきましたが、納入先から、さらに大幅な値引きを求められています。その代わり、今後は、中国などの新興国からの注文が増えているので、発注量は大幅に増やしたいという提案も受けています。まずは現状を分析してみましょう。
現在、1個当たりの総原価(製造原価と販売管理費の合計のこと)は、86円ですから、1個80円の販売価格では、1個当たり6円の営業損失がでています。製造販売量は月25000個ですから、15万円(6円×25000個)の営業損失ということになります。
この原価実績で考えると、何個を製造販売すれば利益がでるでしょうか。