イノベーション(改革)とは、どこから生まれるのか? 人の心を掴むようなプロダクト、サービスなどには、その根底に何があるのか? マズローの欲求のピラミッドを参照しながら、「ニーズからウォンツへ」というパラダイムシフトが起きていることは第2回で示した通りだが、第3回は、最近の具体例を紹介しながら、WANTS/ウォンツ起点でプロダクトやサービス、そしてビジネスを設計する時代に入りつつあることを、明らかにしてみたい。ニーズ発想では、なぜ、いけないのか。何が、限界なのか。ウォンツ発想で、何が生まれ、何が可能になるのか。新しいパラダイムを感じ取るイノベイターたちは、すでに人々のウォンツを中心にデザインするという新たな作業を始めているのだ。
「サーフィンでいい映像を撮りたい」という
ウォンツから生まれたGoPro
GoProというカメラが世界的に売れている。これだけ携帯電話やスマホにカメラがついて、デジカメ自体が苦戦しているのにもかかわらず、だ。
海の中だろうが、スカイダイビングだろうが、自転車だろうが、砂漠だろうが、どんなエクストリームな状況の中でも、広角・高解像度の映像(4Kも可能)が撮れる。手のひらで握れるくらいの数十グラムのカメラには、液晶モニターもついていない。欲しい分だけ自分でアクセサリーをそろえて、自分の用途に合わせて自由にカスタマイズできる。
スマホのアプリからは、Wifiのリモートコントロールで、プレビュー、再生、ソーシャルメディア上での共有、最大50台のGoProを同時に動かすなど、いろいろな操作が手元でできる。わざわざ新しいリモコンをポケットに入れて持ち歩く必要もない。
このカメラは、ニーズから生まれたのだろうか? いや、GoProは創業者ニック・ウッドマンの強烈なウォンツから誕生している。彼の「自分自身でサーフィンのいい映像を撮りたい」という欲求がなければ、このカメラは誕生しなかった。
そして彼のウォンツは、他の多くのエクストリーム系アスリートにも飛び火した。さまざまなスポーツの場で、「記録したい」「楽しみたい」「見せたい(魅せたい)」「シェアしたい」ウォンツをもっているユーザーたちに連鎖的に発火した。
おそらく、企業のお決まりの会議にかけられて、ニーズや汎用性を徹底的に追求されたら、この企画は一発で弾き出されるだろう。前回の連載で、マズローの欲求のピラミッドを参照しながらニーズ発想の限界について述べたが、生活上の基本的なニーズが満たされ、インターネットが浸透しきった今この時代、人々は同じ趣味嗜好を持った人々でクラスター化し、より能動的になった。
受動的で集団的な欲求は「ニーズ」と言えただろうが、能動的で個人的な欲求は、もはや「ニーズ」ではなく「ウォンツ」となる。そう、GoProはまさに、ウォンツから生まれた象徴的なプロダクトだ。