Web業界のトレンドは、「欧米の流行が2年後に日本に来る」と言われる。特に国内メディア企業の出遅れが著しいのが「動画広告」の市場ではないか。アメリカにおける動画広告の市場規模は2012年度の段階で23億ドル(約2300億円)を越え、今年度は40億ドル規模に成長することが予測されている。ウォールストリートジャーナルを始めとする大手メディアもこぞってサイトに動画プレーヤーを埋め込み、テキスト記事だけでなく動画も使ってニュースを配信することが当然になってきている。
そんななか、“スポーツ”を軸とした動画コンテンツ配信と動画広告の展開で世界最大級の規模を誇っているのが、イギリスに本拠を置くPERFORM(パフォーム)グループだ。
07年に設立されたパフォームは、現在ヨーロッパ・北米・中南米・アフリカ・アジアの25ヵ国で動画配信ビジネスを展開しており、全世界で年間50億回を超えるVOD(ビデオオンデマンド)配信の実績を持つ。月あたり1億2000万人以上のスポーツファンにリーチするという巨大ネットワークは、どのように作られたのか。そして日本における動画広告ビジネスの展望とは。来日した同グループCEO、オリバー・スリッパー氏に話を聞いた。
動画配信のグローバル展開のカギとなったePlayer
設立当初のパフォームの事業は、プレミアリーグ(英国のサッカー1部リーグ)の下部リーグに所属する1クラブのWebサイトの制作から始まった。大手メディア企業の後ろ盾も何もなく、まさにゼロ地点から、わずか数年でスポーツ動画コンテンツ市場のナンバーワン・プレイヤーにのし上がってきたのだ。
その契機となったのは、イギリスにおいて「ウォッチ&ベット(Watch&Bet)」という、オンライン・ブックメーカー向けの動画配信サービスを展開したことにある。スポーツ中継をライブ配信しながらベット(賭け)を促すこのWebサービスは、提携するブックメーカーにとっては口座獲得の切り札となり、あらゆるスポーツが賭けの対象になるイギリスにおいて大成功を収めた。
「08年のリーマンショック以降、大手メディアはグローバルに動画配信を展開する意欲が後退し、投資を控えたり既存のサービスを売却するようになりました。それが、我々にとっては大きなチャンスでした。ただ、『ウォッチ&ベット』は、スポーツ賭博が法的に認められているヨーロッパのいくつかの国でしか展開できないビジネスモデルで、アメリカやアジア諸国では成立しません。そんな折りに、アメリカのESPN(全米最大級のスポーツ専門チャンネル)を訪問する機会があり、ESPN自身のサイトでオリジナルの動画配信とそれに伴う動画広告収入の伸びが大きいことを聞き、我々自身も同じようにやってみようと思い立ちました」(スリッパー氏)