全国各地で無線通信の常識を塗り替える可能性を秘めた“小型中継機”の実証実験が始まった。
その中継機を携行すると、周囲に存在する複数の無線通信規格の中から、自動的に余裕のある帯域を選び出し、まるで“波乗り”のように利用者にとって最適な無線ネットワークに接続してくれる。
固定電話のNTT東日本の子会社で、無線ネットワーク全般を扱う技術系企画会社のNTTブロードバンドプラットフォームが開発した「パーソナル・ワイヤレス・ルーター」(PWR)である。
今回の試作機は、全国各地の公衆無線LAN(Wi-Fi接続)と、NTTドコモの3.5世代携帯電話網(HSDPA規格)のいずれかの電波を感知し、状況に応じて適宜ネットワークを切り替える。
2010年度中に開始される予定の「NTT再々編論議」を前にして、NTT法で協働を禁じられた「固定通信と移動体通信の融合」を先取りする技術だが、潜在的な能力はその程度ではない。
現在、国内には無線LANに対応したデジタル機器が4000万台以上あるが、PWRによって、あらゆる無線ネットワークに相乗りできるようになる。
将来的に、携帯電話の次世代通信規格LTE(3.9世代)、その後は第4世代、Wi-Fi、WiMAX、次世代PHSなどが乱立する世界が来る。
その際、あくまでも消費者の利便性に立ち、選択肢の一つとして「異なる無線ネットワーク間を自由に行き来できる機器」(NTTBPの小林忠男社長)があれば、便利であろう。しかも、同じ無線通信規格同士で最も電波状態がよいキャリアの回線を選択し、自動的に接続するという構想も視野に入る。
過去7年間、ずっと赤字だが、今ではNTT西日本、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズも株主に加わる。すなわち、これはNTT陣営の隠れた“秘密兵器”なのである。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 池冨 仁)