「脱ゆとり」への方針転換により、小学校では2011年度、中学校では12年度から新学習指導要領が完全実施されたが、「生きる力をつける」という方針は新学習指導要領でも変わっていない。「ゆとり教育が見直されたと言われているが文科省の方針はある意味ぶれていない」と前出の渡辺氏は指摘する。

学力低下は本当にゆとり教育のせい?
識者が巷説を「安直」と喝破する理由

 2011年から実施された学習指導用要領では、授業数が30年ぶりに増加した。このため、「脱ゆとり教育」が2012年のPISAにおける「学力向上」に結びついたと言う人もいる。ただしこれは、識者たちに言わせれば「安直」だ。

「2002年にいわゆる『ゆとり教育』が始まり、2003年のPISAで学力が『世界トップレベルとはいえない』とされた。しかし、学習指導要領の改訂による全国的な『学力低下』があったとして、それが実施からわずか1年で起こるでしょうか」(渡辺氏)

 同じ意味で、2011年から行われた学習指導要領によって2012年のPISA調査で学力が急に向上したというのも、確かに想像しづらい話だ。

 『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)、『後悔しない中学校受験 改訂新板』(晶文社)などの著書を持つ教育ジャーナリスト・書籍プランナーの中曽根陽子氏も言う。

「学力の低下や向上について何が作用したかは、複合的に分析しなければならず、難しい。『ゆとり』『脱ゆとり』は、たとえば『学校で教えられる円周率が3になった』というようなことが象徴的に取り上げられて独り歩きし、その意味が正しく理解されなかった面があると思います」(注:「円周率が3になった」は誤報だが、「ゆとり教育で円周率が3になった」という情報は多くの人に広まってしまった)

 ただし一方で、教育現場では実際に「ゆとり教育」に対する反発もあった。当時都内の中学校に勤務していた50代の元女性教諭は言う。

「現場では誰も賛成していませんでした。教材も授業時間数も減らされて、『遊びのある授業』ができなくなった。その代わり総合的学習が増えたけれど、教員は準備が間に合わなくて生徒はついてこない。単なる子守の時間のようだったことすらあります。現場はすごく大変でした」