率直に言って面白みのない選挙だった。告示の段階で既にマスコミは舛添氏の勝利を予測し、結果もそのとおりに落ち着いた。誤解のないように言っておくが、舛添氏の勝利が気に入らなかったというのではない。

 面白みがなかったというのは、この選挙戦を通じて都政の課題が具体的な政策として論じられることがなかったからである。いやそんなことはない、各候補はそれなりに政策を訴えていたではないかとの反論はあろうし、筆者もそれを否定するつもりはない。ただ、その訴えがちゃんとした政策だったかというと、残念ながらその域には達していなかった。

なぜ「脱原発」は
都民にひびかなかったか

かたやま・よしひろ
1974年東京大学法学部卒業後、旧自治省(現総務省)入省。99年鳥取県知事、再選後2007年退任。10年菅内閣で総務大臣、野田内閣発足に伴い退任し、現職。
Photo by Masato Kato

 例えば、宇都宮候補や細川候補が訴えた「脱原発」である。原発政策は中央政府がやることであって、都政の論点ではないとの反論があったが、そんなことはない。東京都はわが国最大の電力消費地であり、その電力は震災前まで他の地域に所在する原発に依存していた。再稼働すればまた以前と同じ状況に戻る。

 都民の中には再稼働に反対する人たちだけでなく、他の地域に原発のリスクを押しつけつつ大量の電力を消費することに対し、一種の後ろめたさを感じる人は多い。エネルギーのこの現状を都民としてどう考えるか、都政はそれをどう受け止め、どう対応するのか。何もなすすべはないのか。こうなると「脱原発」は都政の課題に十分なりうる。

 ただ、単に原発は嫌だからという理由で「脱原発」を唱えるのでは政策とは呼べない。都政に結びつかないからである。特に、「即ゼロ」というからには、都政として具体的にどんな取り組みがあるのか。筆者を含めて多くの都民は聞きたかったはずだ。論戦を通じて、「即ゼロ」を実現する手段を都は持ち合わせていないことが明らかになっただろうが、それならば都としてエネルギー政策について具体的にどんな関与ができるのか、と議論は進んだだろう。

 再生エネルギー開発に全力を注ぐ。そのために公共施設の屋上を太陽光発電に提供する。ゴミや下水道汚泥を火力発電の燃料として利用する。伊豆諸島などで波力発電を支援する。どれほどの予算を投入する。そればかりでなく、全国知事会などに呼びかけ、自治体が連携して自然再生エネルギー開発に乗り出す。こんなやりとりが候補者の間で交わされ、あるいはマスコミを通じてそれぞれの考えが都民に伝えられれば、それこそもっと面白みのある選挙戦になっていたはずだし、それは今後の都政にそれなりの影響を与えることになったに違いない。