Mt.Gox破綻は、
ビットコイン共同体の外で起きた事件
「ビットコイン」の私設取引所で東京を拠点とするMt.Gox(マウント・ゴックス)のサイトが、2月25日に取引を全面的に停止した。これをもって「ビットコインそのものが崩壊した」と考える向きがある。しかし、Mt.Goxは、ビットコインの1両替所にすぎない。それが閉鎖されたからといって、ビットコインのシステムそのものに問題が生じたわけではない。
Mt.Goxは、昨夏までは世界最大のビットコイン取引所だった。現在は最大ではないとはいえ、6%程度のシェアを持っていたとされる。したがって、同社と取引していた人たちに多大の影響が発生する可能性はある。
しかし、重要なのは、「両替所は、ビットコインの維持システム(前回述べたブロックチェーンの更新)の外にある」ということである。Mt.Goxが閉鎖されても、ビットコインの運営そのものには影響が及ばない。
事実、Blockchainのサイトを見ると、いまこの瞬間も、ビットコインが取引され、ブロックチェーンが更新されているさまを、リアルタイムで見ることができる。ビットコインを維持するP2Pのネットワークが攻撃に遭って、運営できなくなったわけではないのだ。
Mt.Goxが閉鎖されたために「ビットコインが駄目になった」と言うのは、比喩的にいえば、町にある外貨両替所が事故で閉鎖されたのを見て、「ドル(あるいは円)という通貨が駄目になった」と言うようなものだ。
ビットコインシステムの外での変化は、すでに起きている。人民元やロシアのルーブルとの交換停止がそれだ。これらは、Mt.Goxの閉鎖より大きな事件である。それによってビットコインのドル換算価値は低下したが、ビットコインの運営そのものが駄目になったわけではない。
この事件が示すのは、Mt.Goxに問題があったということだ。詳細はまだわからないが、サイトがハッカー攻撃に弱かったのかもしれない。
ウォール・ストリート・ジャーナル日本版は、つぎのように言っている。
「(Mt.Goxは、これまでも)たびたび不正侵入や不具合、機能停止に見舞われた」「マウントゴックスの事業は1カ月前から崩壊し始めていた」「マウントゴックスは破綻した方がいい、あるいは破綻させるべきと考える人も大勢いる。これまでの問題も、マウントゴックスがまだ成熟し切れていない、あるいはデジタル通貨の成長に追いつけていなかったことを示唆している」「ビットコインの信奉者はこの瞬間を歓迎すべきだ」「これまでもマウントゴックスでは数多くの問題が発生していたため、同社の破綻がビットコイン共同体の信頼を大きく傷つけることはなさそうだ」
ニューヨークタイムズは、マーク・アンドリーセンのつぎのようなコメントを伝えている。
「今回の事件は、孤立した問題(isolated problem)だ」「その他のビットコイン両替所や関連企業は、問題なく機能し続けている」
攻撃が愉快犯なのか、それともビットコインの盗難目的のものなのかは、日本での報道からは明らかでない。ニューヨークタイムズ(2月25日号)は、過去1年間にMt.Goxから巨額のビットコイン盗難があったと報じている。もしそうなら、攻撃者はビットコインの価値を認めていることになる(誰も、価値のないものは盗まない)。