旧住民と新住民はどう交わればいいのか?
自分たちと違う価値や文化を受け入れるということ
馬場 この間「greenz.jp」というサイトを運営している鈴木菜央さんと対談したんですが(https://diamond.jp/articles/-/49964)、房総のいすみ市では、二地域居住者というより移住者が多いそうなんです。で、移住者の方々も、最近の移住者から、もうすでに何十年と住んでいる移住一世とか二世とかもいる。一方で、本当に昔からこの地に住んでいる「旧住民」もいるわけです。そうすると、「新住民」と「旧住民」の2つのコミュニティがバラバラに町内会を持っているところもあるそうなんです。
旧住民の方たちは、昔からやってきたような冠婚葬祭だったりとか、道普請だったりをして、新住民の方たちは、それとはまた違う価値観で、例えば「太陽光発電を導入しよう」と話し合ったりしているそうです。でも、それは喧嘩別れしているということでは全然ないらしいんですよ。
旧住民の方々から言わせると、「私たちがやっていることはとても大変で、生活の大半を費やさなきゃいけないような共同作業をしているから、あなたたちは、本当にここに居座りたくなったら、こっちに入っておいで」って言うそうなんです。「無理して入らなくていいよ」って。で、新住民の人たちは、その中で行ったり来たりとバランスを取りながら自分たちのやりたいことを展開していくと。
片やですね、私の住んでいる南房総の三芳というところも割と移住者が多いんですが、農業を志している方とか養鶏をしている方が新住民なんですけど、旧住民の中に混ざっちゃってるんですよ。
話していると訛ってるし、「え、本当に移住なんですか?」ってわからないくらい馴染んでいる。そうやって歴史の中に組み込まれていく移住の仕方というのもあって、2つのパラレルな組織を持つようなやり方っていうのが、すごく新鮮だったんですね。二地域居住にしても移住にしても、その土地での旧住民との関わり方には、いろいろなやり方がありますよね。
山崎 いろいろありますね。ただ、両者に共通して大事だと思うのは、いろんな世代の人がそのコミュニティの中に含まれているかどうかです。新住民と旧住民の関わり方はパラレルであっても、当人たちがハッピーでやっていれば僕はいいと思うんだけど、そういう新住民の人たちは、自分たちだけで固まりやすいんですよね。年代的には30代後半から40代半ばくらいまでの人だけが集まって、30年か40年後には、またニュータウンの小っちゃい版みたいなものになりかねないですね。
馬場 確かに。だから、グリーンズの鈴木さんも、地域の消防団に入ったり、奥さんが地域のママさんバレーに入ったりと、いかに旧住民の人たちと交流を持つかが大事だって言っていましたね。
山崎 同じ年代の人たちだけで集まると、みんなで70歳とかになるんですよ。そうすると結局、限界集落と呼ばれるような集落を作るだけの話になっちゃうんです。だから、いかに10歳下、20歳下の人たちをちゃんと受け入れて、集落で生きていくための流儀を伝えていくかが大事なんです。それがグラデーションのようになっていくと、割と持続可能だと思うんですよね。気の合う仲間内だけで、なんとなくエコビレッジみたいなものを作るというのは、流行としてカッコよく見えるんでしょうけど、やっぱりそういうことじゃないんですよ。
馬場 そうですね。楽しそうに見えるしね。「話が合うだろう」とか、羨ましい部分もあったり。違いを受け入れるっていうのはなかなかに大変なことで、私は自分ちで、義理の母と暮らしてるんですよ。違いを認め合いながら暮らしているわけですね(笑)。
山崎 そうですね(笑)。
馬場 それはとても豊かな生活ですし、子どもたちにとっては、非常に得るものが大きいと思いますが、はっきり言って我慢なんですよ(笑)。お互いですよ、私だけじゃなくて。我慢をし合いながら、その中で練れていく文化みたいなものがあって。もう、12、3年になるので、融合したうちの文化みたいなのができてきてるんですけど、最初の導入は非常に辛いですよね。
そういう軋轢というか、楽しくないことを我慢すること、例えば「子どもの暮らす環境を作るために我慢しよう」とか、「古い農村の良さを伝えるために、自分たちと違って少し面倒に感じるけど我慢してやってみよう」みたいなことって、私は尊いもののような気がしているんです。ただ、そのことはとても伝えづらくて、「楽しいことをやろう。楽しいことじゃなきゃ人は集まらないよ」という今の文化に「楽しくないけど、必要なことをやろうよ」とか「やるべきことをやろうよ」って言うと、なかなか受け入れてもらえない。
でも、楽しさとかラクさの先に何があるのかというと、結局、自分と同一の価値観の人たちが凝り固まって、お互いが断絶した状態になっちゃうんじゃないか、それはあまりハッピーじゃないなぁと。