株式市場においては、サブプライムローン問題という夏の痛手が癒えたようだ。FRBの大幅利下げを契機として米国株は騰勢を強め、ダウ工業株30種平均は最高値を更新した。欧州株も戻り歩調を強めているが、それ以上に注目すべきは中国、インド、ブラジルといった新興国市場の雄が、軒並み最高値を更新していることである。エマージング市場においては、傷が癒えるどころか、全力投球モードに回帰している。
日本株もようやく浮上してきたが、「上がるときは鈍く・下がるときは速い」状況で、相対パフォーマンスは悪化している。その背景には、次の4点がある。
(1)アジア株式市場における日本の地位低下。12%に迫る成長の中国、9%成長のインドをはじめ、アジアには高成長国が少なくない。2%成長では日本の魅力が減退するのは避けられない。
(2)中国株の時価総額膨張。エマージング市場の最大のネックは、流動性の低さであった。ところがこのところの株価上昇もあって、香港市場の時価総額は2兆5700億ドル、中国本土の市場は3兆2700億ドルで、合計5兆8400億ドルに上る。日本は4兆6800億ドルであり、すでに中国・香港市場は日本を凌駕している(2007年9月27日時点の概算値)。
(3)日本の政策Uターン。小泉構造改革路線は非難の対象と化し、ばらまき政策への回帰が明瞭である。日本は、2007年3月期で834兆円に上る膨大な財政赤字を抱えている。「なんとかしなければ子や孫の世代に大きな負担がかかる」というのが、小泉改革の原点であった。小泉改革の挫折は、日本にはレーガン、サッチャーがいないことを外国人に知らしめた。
(4)エモーショナルな証券税制批判。証券優遇税制(株式譲渡益、配当に対する税率を20%から10%へ軽減)は「カネ持ち優遇」として、廃止される可能性が高い。そうなれば、個人富裕層は「利益確定売り」をいつ出すか考えるようになる。外国人は日本の個人投資家の動向にも注目している。
こうしたファクターから導き出されるのは、「日本株の地位低下=外国人の投資スタンス変化」である。2003年から2007年7月までに、外国人は38兆8400億円という膨大な買い越しを続けてきた。しかし、上記4点を考慮すると、投資配分で徐々に日本のウエートを削り、エマージング市場に投入するというのは合理的な判断である。
日経平均株価は底入れを完了したが、反騰のピッチは緩慢なものとなるだろう。
(藤戸則弘 三菱UFJ証券シニア投資ストラテジスト)
※週刊ダイヤモンド2007年10月20日号掲載分