「KOIZUMI」後の日本の政治の迷走に落胆した海外の識者は多い。英国の高級紙「エコノミスト・ロンドン」の前編集長で『日はまた昇る』の著者、ビル・エモット氏もその一人だ。欧州きっての知日派ジャーナリストは、総選挙後に誕生する次期政権には、英国のブレア前首相の内政に学んで欲しいと注文をつける。麻生・自民党政権の評価から民主党の実力、日本経済の課題まで、海外の識者ならではの論点から縦横無尽に語ってもらった(聞き手/ダイヤモンド・オンライン副編集長、麻生祐司)。
Bill Emmott(ビル・エモット) 国際ジャーナリスト。英国のエコノミスト誌で、1993年から2006年まで編集長を務める。日本のバブル崩壊を予測した著書『日はまた沈む ジャパン・パワーの限界』(草思社)がベストセラーに。『日はまた昇る 日本のこれからの15年』(草思社)、『日本の選択』(共著、講談社インターナショナル)など著書多数。 Photo by Justine Stoddart |
―7月21日衆議院が解散し、8月30日の投開票に向けた選挙戦が始まった。発足当初から「選挙管理内閣」といわれながら、衆議院の任期満了(9月10日)直前まで引っ張った麻生太郎首相の判断をどう見るか。
誰の目にも明らかなことであり、私も繰り返し指摘してきたことだが、とにかくもっと早い時期に解散・総選挙の決断を下すべきだった。自民党にとっても、先送りは、結局、(世界同時不況も重なり)事態を悪くしただけだった。世評へのダメージだけではない。党のまとまりをいっそう損ねたという意味でも、麻生首相の決断は遅きに逸した。
ただ、今さらの話ではあるが、解散・総選挙は、本来は福田康夫前首相が在任時に断行すべきことではあったと思う。自民党が直面する政権運営上の最大の問題は、衆参国会のねじれ現象から来る“政治的麻痺”に他ならず、総選挙しか解決の糸口はなかった。不人気を理由に、政権を投げ出した彼の責任も重い。また、さらに遡れば、(2007年の)参議院選での自民党の大敗を招いた安倍(晋三)元首相の責任はよりいっそう重い。麻生首相一人を責めることはできない。
―海外から見て、1年近くに及ぶ麻生政権はどのように映っているのか。ここまでで何か評価すべき点はあったのか。
日本国内で言われていることと大差はないだろう。党の一部の反対を押し切って、日本に追加の景気刺激策が必要だと押し通したことを除けば、功績らしい功績は見当たらない。その追加景気刺激策にしても、自民党内の他の誰かが首相をやっていても、同じ決断を下していただろう。
麻生首相は、海外においても、どうしても総理になりたかった人物として紹介されている。昨年の福田辞任後は、首相になる人生において最後のチャンスだったのだろう。麻生氏は首相という立場を果たして楽しめたのか、是非聞いてみたいものだ。
いずれによせ、内外を問わず、後世の歴史家が、小泉(純一郎)氏以降の3人の首相の“功績”について、個別に振り返ることはほとんどないだろう。敢えて無理をして言えば、小泉政権下に著しく悪化した中国との関係を改善させた安倍元首相はその点においてのみ前向きに評価されるかもしれないが、麻生首相については、このまま去ることになれば、政治的変化を拒んだ人物として以外思い起こされることはないのではないか。