永田町は不思議な世界だ。時として世間の常識が通用しないばかりか、その真逆のことがいくらでも罷り通る。

 たとえば、政治家が、「前向きに検討します」や「善処します」などと言う時は、まず間違いなく、何もしないという意味に受け取ったほうが良い。また、演説などで、「国民の皆様のために」などと言った時も注意が必要だ。その真意は「自分の選挙のために」であり、実際に発言を置き換えてみれば、案外すっきりといくものである。

 これらのものを「永田町用語」という。最近でも、その例として“暫定”と“恒久”が挙げられる。

 『広辞苑』によれば、“暫定”とは、〈本式に決定せず、しばらくそれと定めること。臨時の措置〉とある。一方、“恒久”は、〈久しくかわらないこと。永久〉となっている。その通りであるならば、次の事例は一体どうやって説明すればいいのだろうか。

すぐ消えた「恒久減税」と
半永久的な「暫定税率」

 1998年、日本はバブル崩壊後の株式市場の長期低迷にいまだ喘いでいた。小渕恵三首相(当時)は、野菜の蕪を持ち上げて、「カブ、上が~れ」と叫ぶ涙ぐましいパフォーマンスで景気回復を願った。果たして、小渕内閣は、中小企業への貸し渋り対策や地域振興券配布などを含んだ42兆円規模の緊急経済対策を実施し、景気浮揚策の一環として所得減税も導入した。そして、その減税は“恒久減税”と名づけられた。

 だが、それがいつの間にか、“恒久的減税”と「的」が挿入され、昨年には、景気は回復基調にあるとして、“恒久”はわずか8年間の短い生涯を閉じたのである。

 一方で、1972年のオイルショックを受けて、2年間の暫定として、田中角栄首相(当時)が導入したガソリン税(租税特別措置法)の暫定税率は、その後32年間にもわたって維持され続けている。1974年以降は、5年間ごとに延長が繰り返され、現在、与党からは、さらに10年の再延長を求める法案が提出されている。

 仮に10年という延長法案が成立すれば、実に42年間、つまり、約半世紀近くにわたって“暫定”が続くことになる。

 つまり、永田町での“恒久”とは、10年ほどの期間を指し、逆に“暫定”とは、半世紀、場合によってはそれ以上の半永久的な期間を指すのである。