しばらく前、江蘇省塩城市を訪問したとき、地元の技術学院にも立ち寄った。中国の技術学院というのは、日本の専門学校に相当するが、学位的には短大のようなものだ。これまでは、大学に進学できる学力のない若者が行く教育機関という印象がどうしても強かったので、技術学院で勉強している学生は2等品と見られる風潮もあった。そのためか、技術学院には、地方出身、農村出身、所得が低い家庭出身の学生が多い。

引く手あまたの技術学院の卒業生

 しかし、大学の過剰募集により大学生の質が大幅に落ちた今は、むしろ手に技を持つ技術学院の卒業生のほうが社会的に歓迎されている。数年前、同じく江蘇省にある常州市の技術学院のIT学部を訪問した。そのとき、学部内を案内してくれた同学院の責任者の、「うちの卒業生は引っ張りダコになっている。就職先としては、一人が平均8社ぐらいを選べる」という言葉が印象に残った。数十社を回っても採用してくれるところが見つからず苦悩している大学生を尻目に、技術学院の卒業生は8社のなかから自分の一番行きたい会社を選ぶため、精神的な余裕が全然違う。

 私が立ち寄った塩城市の技術学院もそうだった。廊下には優秀な卒業生の写真が張り出されている。その学生の立派なところを書き並べているだけではなく、その年収も書かれている。大卒の年収を上回っているのが一目瞭然だ。

 教室のなかには、「技能が生活を変える」「技能が人生を変える」といったスローガンが書かれている。そのスローガンの前で工作機械を回したり、回路図に従って組み立てをしたりする学生の表情は明るい。

 実際、技術学院卒と大卒の就職事情と収入事情の逆転現象がいろいろなところで見られる。世界の工場になった中国にとっては、技能を持つ熟練工がいくらいても足りないくらいだ。安かろう悪かろうの商品で勝負してきた中国は、いまや品質と技術集約で勝負せざるを得なくなった。こうした社会環境の変化も、技能を持つ熟練工の大量育成を求めている。しかし、労働力の不足という要因もあり、その技能工の量産はなかなか市場ニーズを満たすことができない。自然と、企業はロボットを大量に使用する方向へ舵を切った。この現象は工作機械分野では特に顕著だ。