なぜ農協は農業を衰退させたのか

 では、なぜ農協は、米農業を衰退するような政策を推進してきたのだろうか。それが農協組織にとって都合がよかったからである。

 米の兼業農家の農業所得は少なくても、その農外所得(兼業収入)は他の農家と比較にならないほど大きい。しかも、米農家は農家戸数の7割を占める。したがって、農家全体では、米の兼業農家の所得が支配的な数値となってしまう。兼業農家は農業から足を洗いたい人たちなので、農地を宅地に転売してくれと言われると、喜んで売る。農業所得の4倍に達する兼業所得も年間数兆円に及ぶ農地の転用利益も、銀行業務を兼務できる農協の口座に預金され、農協は我が国第二位のメガバンクに発展した。兼業農家から集まった資金は、准組合員に住宅・車・教育ローンとして貸し出された。准組合員は年々増加し、農協は、今では農家ではない准組合員の方が多い、“農業”の協同組合となった。

 米価を上げることで、農協が持つ全ての歯車がうまく回転した。農業を発展させるために作られた組織が、それを衰退させることで発展した。

 TPPによって関税が撤廃され、米をはじめ農産物価格が低下しても、アメリカやEUのように財政から補てんすれば、農家は困らない。しかし、米価が下がり、非効率な兼業農家が退出し、主業農家主体の農業が実現することは、農協にとって組織基盤を揺るがす一大事だ。農協は巨大な政治力を発揮し、医師会なども巻き込みながら、TPP(環太平洋経済連携協定)に対する一大反対運動を展開した。GDPの1%に過ぎない農業の団体が、日本経済全体の進路を左右するような影響力を行使したのである。

 TPP交渉参加後も、多くの農産物について、関税撤廃の例外とするよう政府・与党に迫り、交渉の進展をブロックしている。地方出身の多くの候補者が、2012年の衆議院選挙では、TPP交渉参加反対という踏み絵を、交渉参加後の2013年の参議院選挙では、重要な農産物5品目を関税撤廃の例外とし、これができないときにはTPP交渉から脱退するようという踏み絵を、それぞれ農協に踏まされて、当選してきている。

 TPP参加は、アベノミクス第三の矢の最大の目玉である。しかし、農協が影響力を持つ限り、TPP交渉は思うように進められない。現に、安倍総理は、農産物の例外の可能性(“「聖域なき関税撤廃」が前提ではない”)をオバマ大統領に認めさせるために、TPP参加の入場料として、自動車で大幅な譲歩を余儀なくされるという煮え湯を飲まされた。米のために車を売ったのである。