フォックス教授は伝統的な心理学の方法だけでなく、fMRI(磁気共鳴機能画像法)など脳を画像で直接観察する機械や、遺伝子検査の技術を組み合わせて、性格形成の解明をリードする最先端の研究者のひとりだ。そんな彼女がマイケルの遺伝子も検査し、“楽観的な脳と悲観的な脳”について画期的な成果を紹介した。それが前述の著書『Rainy Brain, Sunny Brain』である。

成功の秘訣は「楽観脳」

 誰でも自分をかえりみれば思い当たるとおり、人間には楽観的な人と悲観的な人がいる。

 そして人生やビジネスで成功を収めるのはマイケル・J・フォックスのように楽観的な人が多い。

 彼に限らず、ピンチを乗り越えて成功するには、楽観的な性格が重要だとわかってきた、とフォックス教授は説明する。

「楽しいことや報酬に反応する脳の回路、いわば“楽観脳”が強い人は、多少のリスクもいとわず逆境に挑戦できます。いっぽう、危険や恐怖に反応する回路、“悲観脳”が強い人は、ささいなことでも不安をかきたてられ、動揺してしまうのです」

 誰もがこの両方の回路をもち、そのせめぎあいで性格が決まっている。だが、重要なのはバランスだ、とフォックス教授は考えている。楽観脳が強すぎるとリスクを無視して危険に飛び込むことになるし、悲観脳が強すぎれば抑うつや不安といった心の病におちいってしまう。適度に楽観脳が強い状態が、幸福と成功のカギになるのだ。

“感受性”を強める遺伝子の存在

 フォックス教授は、分子遺伝学の手法で楽観脳の形成を追究し、楽観的なものの見方に、脳内物質セロトニンをコントロールする「セロトニン運搬遺伝子」が関わっていることを2009年に発見した。

「性格は遺伝子で決まるかもしれない」という趣旨の論文は、学界を超えて一般にも話題を呼んだ。「多くのテレビ、ラジオの取材を受けました。遺伝子の配列で人格が決まるという考え方に、人々はこれほど強くひきつけられるのか、と興味深かったですね」

 この報道に興味を持ったのが、先述のマイケル・J・フォックスだった。楽天家をテーマにした彼自身のドキュメンタリーに参加するよう、フォックス教授(ちなみに2人は親戚ではないそうだ)をNYに招いたのだ。

 フォックス教授は、自他共に認める楽天家であるマイケルの遺伝子を検査した。