大きなマーケットが海外に広がっているのに、それを手にすることができないのは、大きな機会損失でありもったいない。外資系企業で20年以上働いている土合朋宏氏は、「外国人と対等に交渉することが上手な日本人は、本当に少ないなあ」と感じる機会が増えているという。
最近になってから、外資系でも
交渉力が求められるようになった!?
外資系企業で働いていると、「外国人と対等に交渉する」のは日常茶飯事で、誰もが得意なのではないかと思われるかもしれません。でも実際には、それほど多くはありません。
20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン
代表取締役社長 兼 マーケティング本部長
1966年東京生まれ。一橋大学大学院商学研究科卒業後、外資系戦略コンサルティングを経て、1995年日本コカ・コーラ入社。ファンタ、カナダドライ、アクエリアスなどのブランド・マーケティングを担当。日本茶「綾鷹」の開発・立ち上げを指揮し、2007年バイスプレジデントとなる(当時最年少)。2011年20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン入社。マーケティング本部・本部長を経て、2013年より現職。日本市場創造研究会理事も務めるほか、日本社会の活性化に貢献したいという想いからGAISHIKEI LEADERSのメンバーとして活躍する。訳書に『マーケティング・ゲーム』(東洋経済新報社)など。
というのは、日本市場が活気に満ち、成長期にあった頃は、実は外資でも本社から強く「日本のユニークさ」についての説明は求められませんでした。おそらく、「日本のやり方を完全には理解できていないが、売上・利益が伸びているのだから、欧米のやり方と違っていても今のやり方を認めよう」「結果が出ているのだから、日本の市場には適合しているやり方であるはずだ」と考えた本社の経営者が多かったのです。
ところが日本市場の相対的な重要性が下がり、成長し続けることができなくなった今の状況では、本社のやり方ではなく日本独自のやり方を行いたいならば、常にそのことを説明しなければならなくなったのです。
そういうわけで、外資系企業でも、「外国人と対等に交渉する」というスキルが強く求められるようになったのはきわめて最近のことなのです。
では、なぜ私が、「外国人と対等に交渉する」というスキルを、身に付けることができるようになったのか。これは今の仕事に大きく関係しています。
米系映画会社の日本支社社長としての任務の1つが、「X-MEN」や「猿の惑星」といった映画作品のブルーレイ・DVDの日本での販売戦略を本社に説明し、合意を取り付けることです。例えば、その映画の「ターゲット」は誰か、「どの部分」を強調して売り込むのか、「どのような活動」に「いくら投資」をして、「どれくらいの売上高と利益」を目指すのか、といったことを説明するわけです。
我々が取り扱っている映画という商品は、カルチャーや歴史、ライフスタイルや価値観に強く根差しているため、多くの場合、ターゲットや販売の強調ポイント、マーケティング手法が欧米のそれらと異なります。そうしたカルチャーや価値観に基づいた「日本独自の戦略」を日本人以外の人に説明・交渉するということを何度も経験しているのは、私の仕事の特性といえるのです。
「外国人と対等に交渉するのが苦手」という方には、前提として、英語力の問題があるでしょう。これに異論はありません。そもそも一定レベルの英会話ができなければ、コミュニケーションが成り立ちませんから。
しかし私が知る限り、「苦手」である理由は英語力だけではないようです。むしろコミュニケーションの取り方そのもののほうに、大きな問題があると思えてなりません。