フランスで学んだのは
料理というより、シェフの考え方

柳川「元々歴史が好きだったんですか?」松嶋「そうでもないんですが、地方ごとに視点をずらして歴史を掘り下げると、見える景色が全く違うと知りました」

柳川 先ほど、タラが地中海で取れないのに、なぜ地中海料理に使われるようになったかお話しくださいましたけど、そういうことに詳しいのは、それが料理に大切だからですか?

松嶋 そうですね。僕が幸いこうした考え方になれたのは、渋谷「ヴァンセーヌ」というお店で酒井一之シェフに学んだからだと思います。僕がこの店に修業に入ったのは、彼がフランス在籍期間の最も長いシェフであり、すごく地方料理に対する知識が深かったから。だから、酒井シェフの元で修業するのがフランスへの近道だと思って就職したんです。

 酒井シェフが翻訳された『フランス料理の源流を尋ねて』という本では、フランスの気候・風土、歴史・文化を地域ごと写真と言葉で紹介していました。それを読んで、「現地に行って本当かどうか確かめなきゃ」と思って、本を持ってフランスへ修業に行きました。

柳川 元々歴史が好きだったんですか?

松嶋 そうでもないんですが、その本を読み進めると、歴史も知る必要があるなと思って、いろんな地方で修業しました。修業もある程度終わると、ニースでお店を出して、歴史を掘り下げました。ニースという街はギリシャ人に建設され、ローマの時代やスペインに占領される時代を経て、サヴォイア公国、サルディーニャ王国になり、フランスに統括されていて…。その歴史のおかげでいろんなものが交差して、ニース料理ができたとわかったとき、地方ごとに視点をずらして歴史を掘り下げると、見える景色が全く違うと知りました。

 そんなとき、僕の出身地・福岡の大先輩でもあるサグラダ・ファミリアの主任彫刻家の外尾悦郎さんから「オリジナルなものをつくりたいときは、そのオリジンを知ることが大切だ」と言われたんです。子どもが生まれるのも、まさしくオリジナルですよね。お父さんのオリジンとお母さんのオリジンをミックスされるわけですから。料理もそういうものだと思うし、ビジネスでもそれがすごく大事だと思います。発想の源を知ることが、次の発想につながるのではないでしょうか。

柳川 食材の歴史に詳しくなることで、思い浮んだ新しい料理はありますか?

松嶋 ありますね。実のところ僕は、料理の技術やレシピを覚えたくてフランスに行ったわけじゃないんです。なぜこのシェフがこの料理をひらめいたか、アイデアを生む発想を学べるような会話ができるフランス語を身に付けなければ、フランスで修業する意味はないと思っていました。だから、まずきちんと言葉を覚えようとしましたね。