井上 いやいや、講義って「こう返ってくると次が行きやすいな」という答えがあるじゃないですか。先生からは、僕が想定していた答えより、さらに上を行く答えが返ってきて驚きましたよ。でも、それがまた自然体だからすごいなと……。
この本のテーマでもありますけど、トークって、どちらかが構えちゃうと絶対に盛り上がらない。僕のなかでは、カメラが回っていてもいなくても「先生はいつも本音でしゃべられる方だな」という印象です。文化人の方って、自分をよく見せようとする人が多いじゃないですか。
林 自分をよく見せようという気持ちは、まったくないんですよね。どこか開き直っているところがあって、出したいって言ってきたのはテレビ局だし、もし僕がダメだったら、ダメな人を連れてきた人の責任なわけで……(笑)。昔からそういうスタンスでしか仕事ができないんですよ。一応相手が何を求めてきているのかを読んで、その期待を超えていきたいという気持ちはあるけれど、普段の自分のスタンスを変える気はまったくない。ただ、普段通りの自分で挑戦して、相手の期待を超えることを目指しています。
井上 でも、その考え方ができるかできないかって、テレビ業界に限らず、一般社会においても大きいと思いますね。
身をもって体験することの大切さ
井上 突然ですけど、僕って訛(なま)りがひどいでしょ? 実はしゃべり方で一時期悩んだことがありました。博多出身なもんですから、まずアクセントが違うんですよ。
「これはテレビに出る人間として、間違って伝わるかもしれないな、と。アナウンス学校に通ったほうがいいかな」と葛藤しているとき、テレビ朝日のプロデューサーに相談したら、「君に正しい発音を望むなら、アナウンサーを使うよ。それは君の個性なんだから……。そんなことよりも、人にモノを伝える技術や、取材でなかなか聞けない事実をどうしたら教えてもらえるのか……そっちを勉強しなさい」とアドバイスされたんです。そこからは開き直って、自分の訛りは一切気にしなくなりました。