大手金融機関F社の中枢である営業管理部。この営業管理部では、毎日昼に必ず見られる光景がある。担当の宮田常務が昼食を終えて常務室に戻ると、取締役、部長、課長ら管理職が次々と集まり、決まって同じヤクルトの蕃爽麗茶のパックを飲みながら、常務室のソファで歓談をするのである。
営業管理部の管理職は、しばしば、夕方から誰もいなくなることでも有名だった。本社から社用車で1時間かかる常務の自宅近くのスナックに、全管理職が集まるからだ。そのスナックには、直前まで宮田常務が所管していた人事部の面々の顔も見える。
「オトモダチ」にならなければ、出世できない
日本企業に巣食うオヤジたちの仲良しクラブ
そう、宮田常務派閥の会合である。私的な派閥会合としてのけじめはつけており、費用は一切常務のポケットマネーから出ている。1人、何度誘われても、一切このスナックへ行かなかった課長がいた。この課長は、ほどなくして、地方オフィスへ異動となった。以来、欠席者は出ない。
常に宮田常務のかばん持ちを務め、真っ先にスナックへ出向いていた布川部付部長は、その後、宮田常務の自家用車セルシオを譲り受けて購入し、とんとん拍子で昇格し、最後は専務にまで昇りつめた。人事部長は、宮田常務の上司だった専務の世田谷区のマンションを譲り受け、その後、常務に昇格している。
私が初めてこのスナックへ誘われた時、人事部長にやんわりと、「(「派閥メンバーがいつも集まるのではなく」という言葉を飲み込んで、しかしそういう意味を込めて)人事部としては、営業管理部だけでなく、さまざまなネットワークを広く築くことが重要ですよね」と問いかけた。私の真意を察知した人事部長は笑いながら、しかしメガネの奥の目をキラリと睨ませ、「山口くん、オトモダチだよ!オトモダチ!ボクたちと、オトモダチにならなきゃ!」と答えた。私が、社外でキャリアを築くことを真剣に考え始めた瞬間だった。