今回取り上げるのは通信制の大学院、それもいわゆる「芸術系」である。
自分にはまったく関係ない、と思う社会人も多いかもしれないが、実際にはそうとはいいきれないだろう。芸術は哲学や文学などの人文科学と結びついていることはもちろん、建築などの分野は自然科学と不可分。社会と芸術の視座で捉えてみれば、公共政策や財政学とも無関係ではいられない。純粋に芸術である以上に、学問としてきわめて学際的なシナジーを持ち、また今日では妙に実学的な要素も持っている領域である。
読者の中には、この領域を極めることで仕事の幅がひろがる、もしくはまったく別の仕事ができるようになる人が少なくないだろう。自分のキャリアやバックグラウンドに芸術のアカデミックバックグラウンドが乗ると、どういう未来が描けるかのシミュレーションはしてみて損はない。
そうでなくとも、社会人のなかには、本来芸術関係に進むはずが、間違って現在の仕事をしているような人が数多く隠れているはずだ。そのうちの一部は職を投げて転身し、成功している例もある。適切な例かどうかはわからないが、朝日新聞の夕刊4コマ漫画を書いている作者のしりあがり寿氏は、もともとキリンビールのマーケティング担当をしていたビジネスマンである。
仕事を辞める、という決断以前は非常に重い反面、仕事をしながら自分の才能を試す場としての通信制大学院の価値は無視できない。芸術系の大学院だから、研究だけではなく実作中心の大学院生になることはもちろん可能なのである。
「京都造形芸術大学大学院芸術研究科(通信制)」は、2007年に開学している。それ以前から大学学部の通信教育が順調に運営されていることに続いての開設と言っていいだろう。学部がつくったユーティリティを丸ごと使える強みがある。東京にサテライトキャンパスがあり、履修が順調に進めば、一部の例外を除いて東京だけでスクーリング(対面指導)をこなすことができる。もちろん、京都だけでも修了できるのは言うまでもない。事実上、京都と東京の2系統体制が完成している。また、スクーリングは週末に実施される。
東日本に住んでいると判らないかも知れないが、京都造形芸術大学はいま、とても勢いのある大学として知られている。学長は千住博であり、大学院長に浅田彰氏を京大から招聘。800人超のキャパを持つ劇場を擁する舞台芸術研究センターには渡邊守章氏が所長代行に迎えられ、統括する。これ以上望めない、スーパースターのドリームチーム状態である。
そして、副学長の1人には秋元康氏が就任。純粋な芸術から、芸術のままでいられない芸術までを完全に視野に入れた。いま京都で芸大といえば、京都市立芸術大学よりこちらを思い浮かべる人の方が多いのではないだろうか。
通信制大学院の分野は下記大きく3つに分かれている。
■芸術学/芸術計画/歴史遺産学を含む「芸術環境研究領域」
■日本画/洋画/陶芸/染織が「美術・工芸領域」
■建築デザイン/庭園・ランドスケープデザインが「環境デザイン領域」
とはいえ、大学院ゆえに指導教授の活動領域をチェックするのが先決だろう。