大量生産と1点ものの間にあるものづくり

今、アメリカでは学校の現場に3Dプリンターを持ち込む試みがあります。

根津 どんどんやればいいと思います。でも、ネットでダウンロードしたデータをプリントするだけなら意味がない。何らかのクリエーションを体験させることが重要です。データを一から作れなくても、組み合わせて、エディットすればいい。僕はプロですから線1本から立体を自在に起こせなくてはいけませんが、そんな作業が馬鹿らしくなるほど簡単なモデリングソフトも出てきています。もちろん、簡易なものは仕上がりもそれなりですが、工夫次第でクオリティを上げる余地はある。プリントしてみて「わ、やっちゃった」なのか「意外にいいね」なのか、個人レベルで検証できる。一生懸命作っていいものができれば、商品化をめざすことだって可能です。

誰でも簡単に扱えることに懸念を持つ人もいますが。

根津 「苦労して作ったほうが偉い」という意見には賛同できませんね。同じものなら簡単にできた方がいいし、余った時間でよりクオリティを上げた方がいい。ただ怖いのは、簡単に製品化したばかりに、クリティカルなミスが見逃されるケースです。プロセスが個人で完結すると、関わる人数も減るのでチェック機能が働きにくい。そのぶん細心の注意を払わないといけません。昔なら試作品で実験しないと分からなかったことがCADデータを構造解析するだけで分かるようになり、時間とコストは大幅に節約できるようになりました。しかし、世の中に製品を出すことに対する緊張感や責任感のサイズは今も昔も変わるわけではありません。大企業が作った自動車でも、個人が作ったiPhoneケースでも、流通させた時点で、その製品に責任を持たなければいけない点は同じ。その覚悟が足りないとしたら問題ですが、覚悟を維持した上で便利なツールを使うなら、悪いわけがありません。

3Dプリンターの普及で、大企業の生産現場はどのように変わっていくでしょうか。

ビジョンをモノで共有すれば<br />クリエイティブは加速する

根津 個人的には「中量生産」に未来があるのではないかと思っています。僕が企画をお手伝いしたダイハツの軽スポーツカー「COPEN(コペン)」では、大量生産の工場の中に昔の工場みたいなラインを作って中量生産に近いことをやりました。アップル社でも、パソコンやスマホの量産に切削技術を使っていたりしますよね。このように、大量生産と1点物の間を埋める生産方法が多様化していることを感じています。僕は3Dプリンターが金型をつぶすとは思っていません。むしろ「切削しながら積層する」というようなハイブリッドなやり方が今後もどんどん開発されていくでしょう。今は金型製作に活用されていますが、製品レベルでもできるようになるかもしれない。発想を実現する手段が多様化し、さまざまな生産の形が生まれることを期待しています。

 
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