石田は続けた。

「この自己資本と他人資本で集めてきたお金で、工場や機械装置などの資産を調達する。それがBSの左側に表されている」

「BSの左側が企業の投資活動を表しているということですね」

「その通りだ」

 石田は「いかにもいいコメントだ」と言わんばかりに、高橋を指さしながら言った。
 そして、説明を続けた。

「この投資した工場や機械装置などの資産を使って会社は売上高を作り出す。その売上高から費用を差し引くと当期純利益になる。そして、この当期純利益がBSの利益剰余金に積み上がって、株主の自己資本を増やしていくことになるんだ」

「そういうことなんですか」

「そういうことだ」

「じゃあ、この会社が稼ぎ出した当期純利益、つまりBSに積み上がった利益剰余金というのは株主のものということですか?」

「その通りだ。株主が最初に拠出した資本金が、事業活動を通して利益を生み、それが株主の自己資本を増やしていくことになるんだ。これが資本主義社会の仕組みだ」

「だから会社は株主のものだと言われるんですね」

「その通りだ。ただ、会社はだれのものかという議論はいろいろある。従業員のものだという人もいれば、社会のものだという人もいる。しかし、資本主義の論理に従えば会社は株主のものだ。株主への配当も、この当期純利益が積み上がった利益剰余金をベースにして行われるんだ」

 高橋は、会計が社会全体の仕組みを表しているとは思ってもいなかった。

資本主義の論理に従って
会社の効率を分析する

「この会計の全体像がわかれば、どのように財務分析をすればよいかも自ずとわかってくる。この前の飲み会のときに、『事業の成果をはかる指標の一つとしてROE(自己資本利益率)が大切にされているが、なぜROEが大切なのか、高橋君はわかるかな?』と質問したのを覚えてる?」

「ハイ、もちろんよく覚えています。何のことか全くわかりませんでしたから」

「ROEの計算式はこうだ」

 石田はそういってホワイトボードに計算式を書いた。

「ROEの分子のRはReturn、この場合のReturnとは当期純利益のことをいい、分母のEはEquity、つまり自己資本のことだ。つまり、ROEは株主の自己資本からどれだけの当期純利益が生み出されているかを計算しているんだ」

「ということは、ROEというのは定期預金における利率みたいなものですね。自分が拠出した元金が1年でどれくらいの利息を生みだしているかということと同じような気がします」

「その通りだ。そんなイメージだ。自分が拠出した資本金が1年でどれくらいの利益を生み出しているかということだ」

「事業における資本金と当期純利益の関係は、定期預金における元金と利息の関係に似てるんだ」

 高橋は心の中でそうつぶやいた。