新日鐵住金の名古屋製鉄所(愛知県東海市)でコークス炉火災事故が発生した。同製鉄所における事故は今年に入って5度目。技術力ナンバーワンの安全神話が揺らいでいる。
つかの間の天下だった。9月12日、韓国鉄鋼メーカーのポスコが株式時価総額で新日鐵住金を抜き、世界首位の座を奪還した。アベノミクスによる円安進行を追い風に、新日鐵住金が7年ぶりに首位に躍り出たのは、昨年5月のこと。再び、ライバルに逆転を許してしまった。
株価低迷の元凶は、新日鐵住金の名古屋製鉄所における度重なるトラブルである。
9月3日、15人もの従業員が負傷するコークス炉(原料炭からコークス・ガスを製造する炉)火災事故が発生した。同製鉄所では、今年1月から7月にかけて、黒煙が発生する停電事故が計4度も発生していた。新日鐵住金が8月に、原因調査を実施する事故対策委員会を設けた直後のことだった。
そのため、公式の原因究明はこれからになるのだが、ある新日鐵住金関係者は、「5度にわたる事故の原因は、全て異なっている」と、個別のトラブルの積み重ねにすぎないことを強調する。
確かに、過去4度の事故原因として、「ヒューマンエラー(設備の操作ミス)」による停電や、電力会社からの電力供給に支障が出たときにバックアップ電源が作動しない「配電系インフラの故障」による停電など、それぞれ異なる要因が指摘されてはいる。
さらに、今回の5度目の火災事故の要因の一つとして挙げられているのは、中央集権を徹底した“強い本社”からのコスト要請のプレッシャーである。
通常、コークス炉で蒸し焼きにする原料炭として、高品質で粘り気のある「強粘結炭」と低品質・低コストの「非微粘結炭」を混ぜて使っている。今回、火災を起こしたのは、非微粘結炭の比率を高めるために前処理を行った後の石炭だった。製鉄所の現場で低コストの原料使用率を上げようという意識が高まったことに、この前処理の手順を誤ったことが重なり、火災事故に発展した。