住民が寄贈本だけで運営する
「矢祭もったいない図書館」の評判

古い武道場を改築した「矢祭もったいない図書館」

 今、話題の公立図書館といえば、民間株式会社を指定管理者とした佐賀県武雄市の市立図書館であろう。公立図書館の概念を飛び越えた異色の存在で、図書館関係者の中には眉をひそめる人もいるが、顧客サ―ビスに徹した運営姿勢は高く評価されているそうだ。

 この武雄市立図書館と同様に、業界から異端視されていた公立図書館がもう1つあった。

 2007年1月14日に開館した福島県矢祭町の「矢祭もったいない図書館」(和田昌造館長・町職員OB)だ。寄贈本だけで蔵書を揃え、さらに住民主体による運営を続けているユニークな手づくり図書館である。昨日10月20日には図書館などが主催する第6回「手づくり絵本コンクール」の最終選考審査が実施され、一般の部と家族の部あわせて12作品が最優秀賞や優秀賞などに選出された。

 矢祭町は「平成の大合併」という国策から距離を置き、2001年10月に「合併しない宣言」をした小さな自治体だ。全国でいち早く単独の道を選択し、自立したまちづくりに向けた行財政改革を徹底して行っている。様々な歳出の削減を重ね、その一方で行政サービスの水準を上げる努力をしてきた。

 その1つとして、図書館整備も寄贈本に頼るという奇想天外な策に出たのである。だが、それは、町に金がないから寄贈に頼ったというだけではなかった。金目の話に留まるものではなかったのである。

 矢祭町は福島県の最南端、茨城県との県境に位置する町で、人口は約6300人。図書館はおろか町内に書店もなく、書籍を扱う店舗はコンビニエンスストアだけだった。2005年に行った町民アンケートで町立図書館の開設を希望する意見が多数寄せられるなど、図書館建設が町の悲願となっていた。

 しかし、町は行財政改革の真っ最中で、財源に余裕があるわけではなかった。老朽化した町の柔剣道館を約1億2000万円かけて改築し、そこを新たに図書館にすることまでは決まったが、肝心の蔵書の手当てが宙に浮いてしまった。

 当時、町が持っていた本の数はわずか3000冊。そして、町がやり繰りして捻出した図書購入費はたった300万円だった。箱ものを用意できても、中身までは手が回らなかったのである。