狭い谷に肩を寄せ合う人家
日本で一番少子高齢化が進んだ村

 JR高崎駅で上信電鉄に乗り換え、下仁田に向かう。2両編成の電車はゴトゴトと走っては無人駅に停車する。12番目の駅、上州富岡駅に着くと乗客の数がぐっと少なくなった。世界遺産となった富岡製糸場を目指す観光客らが降りたのだ。

 その後、電車を乗り降りするのはお年寄りと学校帰りの高校生ばかり。ゆったりとした時が流れていった。高崎を出てから1時間が経過し、電車はやっと終着の下仁田駅に到着した。

 下仁田駅前に停車していた「ふるさとバス」に乗り換える。目指す先は群馬県南牧村である。乗客席12のワゴン車に7人が乗り込んだ。

 車窓から街並みがあっという間に姿を消し、紅葉の景色に変わった。バスは、急峻な山の間を蛇行する川沿いをひた走る。右へ左へと曲がりながら、川上を遡っていった。

 十数分ほどすると曲がりくねった道沿いに人家が現れた。それらはまるで、細い一本道の両側にへばりつくように立っていた。視線を上に向けると、山の斜面にも人家が点在する。狭い谷間に肩を寄せ合うようにひと塊となっていた。いつしかバスの乗客が1人となった。

「ここ2、3日のうちにバタバタと4、5人が亡くなっています。まだ若い方もいました」

 バスの運転手さんがこんな話を切り出した。

「若いと言っても70代後半ですがね。村の人口はとうとう2300を切ってしまいました」

 長野県境の山あいにある群馬県南牧村は、人口わずか2233人(2014年10月末)。このうち65歳以上が1302人で、高齢化率58.31%は全国で最も高い数値となっている。75歳以上の後期高齢者は895人で、村民の4割を占める長寿の村である。一方、14歳以下の子どもは73人で、少子比率3.27%もトップである。昨年(2013年)の出生届はわずかに2人。小学生は27人しかおらず、3年生はゼロ。中学生も20人を数えるだけ。つまり南牧村は、日本で一番少子高齢化が進んだ自治体であった。しかも、それだけではなかった。