「永続」を目指す理念、
「消滅」を目指す理念

石坂目的と理念を掲げることでした。父から「謙虚な心、前向きな姿勢、そして努力と奉仕」という3つの理念を教えてもらい、永続企業になるという目的に向かって、この理念に基づいて行動してきました。

西條 絶体絶命のピンチに明確な目的や理念は必要ですね。理念の本質とは、目的の抽象度をやや上げて、チームメンバーや周囲の人たちから共感を得ることです。「ふんばろう」の目的は、「被災者が自立した生活を取り戻すためのサポートをすること」、理念は「組織がなくなること」でした。被災した方が自立した生活を取り戻せば、プロジェクトは必要なくなる。だから早くそういう状況をつくってなくなることを目標としようと。プロジェクトを支援してくれた多くの人たちの中で、糸井重里さんや宮本亜門さんもこの理念に共感してくれました。

石坂目的や理念を大切にしてリーダーがブレないことがとても大切ですね。重要な決断の場面で、理念に立ち戻ることがたびたびありました。

西條 僕もです。被災地に家電を配るプロジェクトを行ったとき、「そんなことをしたら地元の商業活動を圧迫する」と批判されたことがありました。でも、半壊した自宅に戻って暮らしている人には、日本赤十字社から家電はまったく支給されていませんでした。失ったものを補てんすることは商業圧迫ではない。「被災者が自立した生活を取り戻すためのサポートをすること」というプロジェクトの目的に照らせば、それはやるべきとなるわけです。目的からブレずに実行した結果、2万5000世帯に必要な家電を配ることができました。

石坂 人は誰でも批判されたくないので、目的や理念がないとブレてしまいます。私が社長に就任する前、「女性経営者はイノベーションが起こせない。だから(私を)社長にしないほうがいい」と父の参謀格の人が言っていました。この言葉は今でも頭に残っていますが、「永続企業」が目的なので、イノベーションは必ずしも起こさなくていい。失ってしまった信頼を取り戻し、永続企業になるための礎を固めることに専念してきました。

西條 ですが、その姿勢が、数々の前例のないイノベーティブな実践を生み出してこられたということがすごいですよね。先日の高野登さんとの対談で高野さんもおっしゃっていましたが、理念に沿って行動するなんて当たり前と思われがちですが、当たり前ではないレベルで当たり前のことを徹底して実践したことによって、結果としてイノベーションを起してしまっているのがすごいです。

石坂 西條さんは短期間で総合的なプロジェクトを立ち上げて10万人の方々を組織された。私は1つのことを愚直に12年間やってきました。いずれにしても、組織を経営するにあたって、目的や理念の設定はとても大切ですね。

西條 はい、営利企業でも非営利組織でも理念というのは価値観であり、組織のコンパスみたいなもので、それが明確になっていなかったりすると、足並みが揃いませんからね。それに照らして意思決定がなされる組織の憲法でもありますから。
(第5回へつづく)

<著者プロフィール>
埼玉県入間郡三芳町にある産業廃棄物処理会社・石坂産業株式会社代表取締役社長。99年、所沢市周辺の農作物がダイオキシンで汚染されているとの報道を機に、言われなき自社批判の矢面に立たされたことに憤慨。「私が会社を変える!」と父に直談判し、2002年、2代目社長に就任。荒廃した現場で社員教育を次々実行。それにより社員の4割が去り、平均年齢が55歳から35歳になっても断固やり抜く。結果、会社存続が危ぶまれる絶体絶命の状況から年商41億円に躍進。2012年、「脱・産廃屋」を目指し、ホタルや絶滅危惧種のニホンミツバチが飛び交う里山保全活動に取り組んだ結果、日本生態系協会のJHEP(ハビタット評価認証制度)最高ランクの「AAA」を取得(日本では2社のみ)。
2013年、経済産業省「おもてなし経営企業選」に選抜。同年、創業者の父から代表権を譲り受け、代表取締役社長に就任。同年12月、首相官邸からも招待。2014年、財団法人日本そうじ協会主催の「掃除大賞」と「文部科学大臣賞」をダブル受賞。トヨタ自動車、全日本空輸、日本経営合理化協会、各種中小企業、大臣、知事、大学教授、タレント、ベストセラー作家、小学生、中南米・カリブ10ヵ国大使まで、日本全国だけでなく世界中からも見学者があとをたたない。『心ゆさぶれ! 先輩ROCK YOU』(日本テレビ系)にも出演。「所沢のジャンヌ・ダルク」という異名も。本書が初の著書。