SNSが情報を瞬時に拡散するデジタル時代、企業広報はリアルタイムマーケティングとの連携や突然の不祥事への対応など、気が抜けない状況が続く。そんななか、企業広報を代行するPRエージェンシーへの引き合いが増えている。世界で業界1位の7.7億ドルを売り上げるエデルマンの日本法人を率いるロス・ローブリー社長が、企業PRの変遷と今日の課題を語った。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 指田昌夫)

記憶に残る「双子のパーマ」の
PRキャンペーン

――「PR業界」は、とくに日本ではその役割が正しく認識されていないように思います。企業の広報部門や、広告代理店などとの違い、企業広報宣伝における位置づけを教えてください。

ロス・ローブリー(Ross Rowbury)
1962年オーストラリア生まれ。1985年三洋証券(当時)の調査部に入社。メルボルン勤務などを経て外資系証券2社に勤務。次に日本で外資系PR会社に転職し、PR業界のキャリアをスタートさせる。国際的なM&A案件を広く担当。その後PRAPジャパン創業者の矢島尚氏(故人)と出会い、同社専務COOとして株式上場にも携わる。2010年エデルマン・ジャパンの代表取締役社長に就任。日本在住36年で日本語は堪能 Photo:DOL

ロス・ローブリー(以下・ローブリー) PRの形は時代によって変わってきています。1966年にエデルマンが創業したときがPR業界のはじまりだと言えるでしょう。PRエージェンシーとして当初やっていたことは、キャッチコピーを作って広告枠を買い、そこで発信するという当時の広告代理店の仕事と違い、PRは第三者のステークホルダー(メディアなど)に対して話題を提供することでした。広告よりコントロールはし難いが、その分効果は大きいという位置づけでした。

 たとえば、当社の創業者のダン・エデルマンが当時作ったキャンペーンにわかりやすい例があります。米国でトニーという会社の「自宅でできるホームパーマ」のキットをPRするために、双子の1人が美容店でパーマをかけ、もう1人が自宅でパーマをかけて、2人を並べて比較するという実験を公表しました。

 当時らしいと思うのは、このパーマをした何組かの双子を連れて米国全土をキャラバンし、街々でメディアを集めて発表をしました。商品の特徴をどうしたら端的に伝えられるかを考え、こうした仕掛けでストーリーを作ることで、メディアが取り上げることで消費者に理解してもらう「メディアリレーション」の基本スタイルは、現在も変わっていません。

――エデルマンは、PR業界の中で世界1位の7.7億ドルという売り上げ規模を誇っています。しかもこれは純粋な報酬としての金額です。なぜこのような成長が果たせたのでしょうか。

ローブリー それは企業の広報活動と宣伝活動が一体になってきているからだと考えています。企業が情報を発信する手段が大きく変わったことが背景にあります。そのため広告代理店、デジタルエージェンシー、クリエイティブエージェンシー、そしてPRエージェンシーの境界はあいまいになってきています。たとえば今年のカンヌ・ライオンズPR賞は、史上初めてPR会社として、エデルマンのキャンペーンが受賞しました。

 我々の業務も多岐にわたるようになり、メディアリレーションだけの業務から、広く「コミュニケーション」の分野全般に関わるようになっています。顧客企業の要望も、「いいコミュニケーションのアイデアがあれば、パートナーはどんな業態でもかまわない」というように商流も変化しています。

 我々のようなPRエージェンシーがここまで大きくなってきたのは、企業の広報予算に加えて、規模的にはケタ違いに大きいマーケティング予算にもアクセスできるようになってきたからです。実際、我々の仕事の現場では、広告代理店と協業することもあれば、競合することもあります。