『週刊ダイヤモンド』2015年1月24日号の特集は、「孫正義 世界を買う」。その中から、中国からインド、さらにアジア進出を目指す孫正義ソフトバンク社長の「西方遠征」戦略の背景と狙いについてお送りします。

週刊ダイヤモンド1月24日号は孫正義ソフトバンク社長を特集

「中国を制するものが、世界を制す」。孫正義社長が最初にそう語ったのは、2000年の元旦のことだった。

 アリババ集団創業者のジャック・マー氏と初めて出会ったのはその前年のこと。昨年、アリババが世界最大規模の株式公開を果たしたのだから、まさに15年かけて“世界制覇”したといえる。

 そして、まさに中国から世界を制したその年に、孫社長はインドに照準を合わせた。インドでの「第2のアリババ探し」を公言する孫社長の新たな視線を理解するには、その15年という“時間差”が一番のキーとなる。

「タイムマシン経営」。孫社長が1990年代後半から、繰り返し唱えていた経営手法だ。

「米国で成功したビジネスモデルは、その後必ず日本にもやって来る」。そう直感した孫社長は、米ヤフー、ジフ・デービス、コムデックスなどの米国企業に出資し、それらを情報源にして、最新のビジネスを日本に持ち込んだ。

 米国ですでに勃興していた電子商取引(EC)を、中国独自のやり方で成功させたアリババへの出資も、中国版タイムマシン経営のたまものと呼べるかもしれない。中国の EC 市場は今や20兆円規模といわれるまでに成長した。

 では、インド進出の背景にはどんな戦略があるのだろうか。

 それを読み解く言葉が「オリエンタル・エクスプレス」。数々の小説や映画の舞台となった長距離寝台特急になぞらえた、IT分野における「東洋の特急」だ。

 この手法を孫社長に提言したというソフトバンク・ベンチャーズ・コリアのグレッグ・ムーンCEOは「アジア版のタイムマシン経営」だと解説する。

「タイムマシン経営は、日本や中国、韓国で成功した。だが、今や日本の市場は、スマホ普及率などで米国より進んでしまった。だから今からは、中国、韓国を超え、新たな世代が台頭している巨大市場の東南アジア、インドで同じ手法を採用していくのです」

 つまり、先進国のモデルを、中国と並ぶ巨大市場のインド(人口12億人)や、インドネシア(同2億人)などアジア各国に一気に持ち込む戦略を描いているのだ。