これまで、ヒューリスティックス(判断の単純化による誤謬)、プロスペクト理論(不確実性下での合理的判断の困難さ)、心の会計簿(カンジョウのカンジョウ)など、行動経済学の知見を紹介してきた。それらから、人は経済学が前提とするほどの合理性を持ち合わせていないことがわかっていただけたと思う。
投資家も、そうした心のバイアスから逃れられるわけではない。その対策の1つは、これらを教訓とすることだ。つまり、合理的でない人を反面教師として「できる限り合理的に考える」のである。
自分をプロと思って
発想する
拙著『図説 マネーの心理学』(三笠書房)で、「マネー適性テスト」という問題を40問ほど掲げたことがある。例えば、以下のような問題である。素直な気持ちで答えてみていただきたい。
【問1】
おじいちゃんの代から持ち続けている株は、自分が買った株より売りにくい。Yes? No?
次に、少し気持ちを切り替えて答えてみていただきたい。
【問2】
自分のことを“プロのファンドマネジャー”だと考えて回答してください。
おじいちゃんの代から持ち続けている株は、自分が買った株より売りにくい。Yes? No?
問2は、心構えが違うだけで、それ以外は問1とまったく同じ問題である。
その本の執筆当時、私が勤めていた証券投資信託のコールセンターの女子社員十数人に、問1のような自らの思考や行動パターンを問う質問を40問出題したことがある。何も前提を与えずに(“素直な気持ち”で)答えてもらい、回答が終わるや否や、問2と同様「自らを“プロのファンドマネジャー”だと考えて回答してください」とだけ伝えて、同じ問題にもう一度答えてもらったのである。
問題を作成した私自身驚いたのだが、2回目は1回目よりも正答率が平均で3割以上も上がったのである(といっても、私が考える正解であるが)。しかも、成績が下がったのは1名で、ほぼ全員が成績を上げた。もちろん、続けて同じ問題に答えたということもあるかもしれない(再考、つまり、じっくり考え直したということかもしれない)。
前にも紹介したが、一橋大学の授業でのアンケートでは、問1はイエスが73%、ノーが27%だったが、問2ではイエスが20%、ノーが80%となった。