東京のオフィス街でよく見かける弁当の路上販売。その多くが安価なことから「ワンコイン弁当」とも呼ばれ、ビジネスパーソンたちに親しまれてきた。とはいうものの好意的な視線ばかりではなかったようで、東京都によると、不衛生、道路の占有、そして固定店舗への営業妨害といった苦情の声も上がっていて、ついには業者への規制強化につながった。
路上販売の弁当による食中毒騒ぎなど聞いた覚えのない人がほとんどだろう。それもそのはずで都の資料によれば「都内では現在まで行商用弁当による食中毒の発生は認められていない」とのことである。対して、販売数に大きな差があり単純に比較できないとはいえ「行商用以外の弁当が原因となった食中毒は407件発生しており、患者数は2万6694名だった」という。
衛生管理は徹底されるけれど…
お昼の楽しみが減ってしまう可能性も
それでも東京都は路上販売の規制強化に踏み切ったわけだ。今年2月の都議会に提出される条例の改正案は、以下のようなものだ。
まず事業は現在の届出制から許可制に改める。また衛生管理徹底のため、保冷容器の使用や、所定の講習を受けた食品衛生の責任者を置くことを義務づける。違反した業者は営業停止などの行政処分の対象となる。
今回の経緯は、もちろん「お上が弱小業者に難癖をつけ、いじめている」といった単純な構図には収まらない。都の調査によれば確かに、現在の路上販売の在り方には衛生面の不徹底などの問題はある。亜熱帯と化した東京での路上販売に一部の消費者から不安の声が上がるのも当然だ。
ただし、朝に調理を終え昼に売るという点では仕出し弁当と変わらないのに、なぜ路上販売だけが槍玉に上がるのかといった言い分が業者側にもある。業界団体「日本移動販売連合会東京支部」を立ち上げ、規制への対応や発信力の強化を狙っている。
ギリギリで商売している比較的小規模の業者にとっては、新条例に対応するコストすら大きなダメージとなり得る。何も「弱小業者をいじめてやろう」などとは誰も意図していないはずだが、これまで圧力団体も持たなかった小さな業界相手だからこそ、消費者や固定店舗からの苦情がスムーズに規制へとつながったという側面はあるだろう。
ビジネスパーソンと健康という観点からは、規制により路上販売の衛生管理が向上することを歓迎すべきだと思う。だが、いつも楽しみにしているあの弁当もこの弁当も、来年からは食べられなくなるかもと思えば、喜んでばかりもいられない。
(工藤 渉)
参考URL:
弁当等に関する食品販売の規制の在り方について(東京都)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/KONDAN/2014/02/DATA/40o2h201.pdf