リハビリテーションの方法や常識が変化している。特に退院後の自宅でのリハビリで、緩やかに改善する可能性が出てきた。救急搬送時、リハビリ専門病院、自宅でのリハビリで、症状がどのように変化していくか、『ダイヤモンドQ』編集部が紹介する。
救急搬送時のリハビリ
いまや入院当日からスタート
一昔前まで、脳卒中の治療後は再発リスクがあるため、数日間の安静が常識だった。
しかし、近年では集中治療室に入院しても、再発リスクが少ない場合、身体のリハビリテーション(以下、リハビリ)が始まる。特に脳梗塞・脳出血は、早ければ入院当日、くも膜下出血は翌日から、ベッドで上半身を起こす動作を始める。
入院中のリハビリについて、武蔵野赤十字病院リハビリテーション科の高橋紳一部長は「早期退院を目指して可能な限り早く、座る訓練に入る」と言う。
同院の場合は、意識がなかったり、人工呼吸器が付いていたりしても、血圧や脈拍を測りながら床に足を着ける形で座ってもらう。そのとき、心臓に負荷がかからないよう、足を動かしたり、脚に弾性包帯を巻き付けたりする。座れない場合は、痰を出せるよう介助する。
これまで、早期からリハビリする理由は、手足の筋力が低下するからといわれてきた。
だが、高橋部長は「それより、まず循環器系(心臓を中心とした血液の流れ)の機能の低下が先に起こるため、上半身を起こして血圧を維持することが重要」と言う。座ることで呼吸がしやすくなり、肺の合併症も起こりにくくなる。
車いすに座れるようになったら、理学療法士と共に平行棒などを使って立つ練習、脚に装具を着けて歩く練習もする。筋力の低下や関節が硬くならないような訓練もする。
筋力は1週間で1~2割、2週間で3~4割低下し、「1週間の筋力低下を回復させるためには、1カ月かかる」といわれるからだ。
発症からしばらくは、記憶力や認知力も低下しやすい。このような障害には作業療法士が対処する。
覚えておくべきことは、まひの回復のためには数週間以内に対応することだ。特に、手指は発症1カ月以内にリハビリを始めれば、神経細胞の萎縮を阻止できる。作業療法士が日常生活の食事・着替え・排泄などの動作ができるように訓練をする。
まひした場合、喉の筋肉も弱くなり、唾液や薬の飲み込みが悪くなる。その場合は、言語聴覚士から改善の訓練を受ける。話す・聞くなどが不自由になった場合も言語聴覚士が担当する。
国内の研究では、集中治療室に入院した脳卒中の患者が入院時から理学療法や作業療法を始めると、65歳未満の6割、高齢者の5割が地域生活に復帰できたという。
しかし、救急搬送時からのリハビリを、早くから十分な時間、正しい方法で実施している病院はまだ少ないのが実情だ。
高橋部長は、脳卒中の軽症例は自宅退院へ、中等症以上の場合は半数を7日程度で地域の病院やリハビリテーション専門病院へ転院させている。どんな救急の依頼でも断らないようにするためだ。同院のある東京・北多摩南部では、2001年から6市(武蔵野市・三鷹市・小金井市・調布市・府中市・狛江市)で「北多摩南部脳卒中ネットワーク」を構築し、急性期の病院、リハビリテーション専門病院、介護施設が密に連携する。救急病院から在宅療養まで、同じ考え方で治療もリハビリも継続的な実施体制を整えている。