DIAMOND CFO FORUM

一流の経営者はデータの向こうに
現場が見える(上)

伊丹敬之・東京理科大学大学院イノベーション研究科教授

 会計データ依存症の危うさは、この影響システムという側面を軽視し、単純化された数値だけで判断してしまうところにあります。

 かれこれ10年近く前になるでしょうか、スターン・スチュアートというコンサルティング会社が開発した「EVA」(Economic Value Added:経済的付加価値)という指標が世界的にもてはやされ、日本でもいくつかの有名企業が導入しました。最近では、再びROE(自己資本利益率)が注目されていますね。

 EVAやROEに限らず、こうした財務指標が金科玉条になる時、会計データ依存症が生じやすい。人は数字が好きですからね。だからこそ、気をつけなければいけません。冗談みたいな話ですが、事業部EVAの成績順で会議の席順を決めていた企業があったそうです。

 繰り返しになりますが、計数管理は経営者の重要な仕事の一つです。しかし、その数値に振り回されてしまっては本末転倒というものです。

――こうした最終的な数値だけでなく、そこに至るまでの業務プロセスや個々の作業を正しく把握するために「見える化」に取り組み、現場のパフォーマンス改善に役立てている組織が増えています。

 見える化にも、管理会計システムと同じく、経営者や上司への情報システムとしての側面と、現場や部下への影響システムの側面が存在しています。

 前者では、現場の実態がいっそう明瞭になり、また各メンバーの仕事のやり方や成果も把握できるため、意思決定や日々の管理業務の質が向上することが期待されます。また、目標管理や業績評価などにも利用できます。

 後者では、自分だけでなく他人の成果も見えるようになりますから、各メンバーの競争意識が刺激され、個人差はあるとはいえ、みんな、以前よりも一生懸命働くようになると考えられます。

 ところが、敵もさる者で、見える化が導入されると、必ず「見せる化」を始める人が出てきます。つまり、どうすれば上司の目に覚えめでたく映るのか、先回りして対策を講じるのです。

 そしてもう一つ、けっしてねつ造や不正ではないのですが、きれいな数字をつくろうとする。たとえば、今月は目標に届いていないけれど、来月は目標を超えそうだから、その分を前倒しで計上できるように工夫するとか。一種の逃げです。その結果、実態は歪められてしまう。

 そればかりではありません。なぜ今月は目標を達成できなかったのか、その理由はうやむやにされてしまう。もしかしたら重要な問題が潜んでいたかもしれない。あるいは、チャンスを逸していたのかもしれない。せっかくの学習機会なのに、もったいない話です。(つづく)

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