IoTの主戦場となりそうなのが「スマートホーム」だ。

 実は、この分野は古くからビジョンが語られながら今日まで実現しなかった「狼少年」だ。1980年代にすでにアメリカで「スマートハウス」という概念が提唱されている。家庭内の設備機器や家電を情報網でつないで制御を行い、ホームオートメーションを実現するというものだ。

 1990年代には、日本でも家電メーカーなどが同様のビジョンを発表している。例えば、外出先から電話により(当時はまだ携帯電話が普及していなかった)ドアロックやエアコンの操作を行い、テレビ画面や冷蔵庫のディスプレーから家中の家電機器をコントロールしたり、ホームショッピングができる。冷蔵庫の中身をモニターして自動的に食品を補充する。あるいは、家で測定した尿や血圧のデータを送信する遠隔医療診断システムまで提唱されていた。

 1990年代中頃のインターネットの登場により、より多くの機器がネット接続されることが期待された。例えば、レシピ情報を常にアップデートできる電子レンジ、ネットにつながった監視カメラを携帯電話で確認できるセキュリティシステムや高齢者の見守りサービスなどの実現が期待された。

 さらに2010年代になるとさらにビジョンが拡大し、家庭内のエネルギー管理を一貫して行うHEMS(Home Energy Management System)が提唱された。各家庭にある電気メーターに情報通信を付与して「スマートメーター」にすることによりスマートホーム分野に参入しようと考えた電力会社と家庭につながった電話とブロードバンド通信を通してスマートホームで覇権を取ろうとした電話会社がつばぜり合いを演じた。

 しかし、これらのビジョンは話ばかりでほとんど実現しなかった。各メーカーが独自に開発してシステムの規格が統一されておらず、住宅設備、家電、情報機器、ソフトウェアなどすべてが同じメーカーで統一されていなければ動かない、という状態で、現実からは程遠いものであり、誰も主役とはなっていない。

 これらの実現を目指すために、日本では関係省庁が音頭をとってコンソーシアムや実証プロジェクトが立ち上がったが、スマートホームの普及が進むことはなかった。