日本文化の習得に熱心な外国人エリートが
どうしても理解できない「風習」とは?
本連載「黒い心理学」では、ビジネスパーソンを蝕む「心のダークサイド」がいかにブラックな職場をつくり上げていくか、心理学の研究をベースに解説している。
先日、筆者の住むマレーシアで、日本のビジネスマナーを教えている日本人女性にインタビューする機会があった。もともと日本でのビジネス経験の長い彼女は、夫の赴任に伴ってマレーシアに来た。英語が堪能なので、それを活かした仕事として、ビジネスマナー講師を行っているという。
彼女が最近研修を行った会社は、クアラルンプールを拠点とした若い会社で、創立してまだ2年である。だが、最近急激に業績を伸ばしており、先日クアラルンプール中心部の再開発計画を勝ち取り、日本の大手不動産会社と共同事業を始めることになった。
社運がかかったビッグプロジェクトのうえ、日本の大手不動産と一緒に仕事をするのだから、下手なことはできない。そこで、エグゼクティブクラスの社員のほぼ全員が、彼女の研修を受けたそうだ。
彼女が驚いたのは平均年齢がまだ30代のエグゼクティブたちの、旺盛な知識欲だ。彼らは、挨拶の仕方、名刺の渡し方、客への飲み物の出し方、会議の席の位置、タクシーなどでの座席場所の心得といったマナーを次々と学んでいくだけでなく、そういった表面的なマナーの背後にある日本人の考え方や日本文化についてもたくさん質問をしてくるのだという。例えば、お茶は茶碗に3割程度しか注がない、といった振る舞いについて、それ自体を理解するだけでなく、それが日本の茶の湯文化から来ていることまでを知ろうとする。
彼らの熱心さには彼女も感服したそうだ。だが、ひとつ、彼らが何度彼女に尋ねても、また何度彼女が説明しても、いまひとつ理解できなかったことがあった。
それは、仕事以外のインフォーマルなコミュニケーションの使い方だ。ある社員は、マレーシアに戻ってくる前、外国人社員として日本の大手建設会社に4年ほど勤めていたが、その時に最も困惑したのが、仕事の外での「おつきあい」だ。飲み会、懇親会から、ゴルフや社内運動会など、日本の、特に古い企業では、そういったおつきあいの時間はたくさんある。彼にとっては、それがどういう場なのかを理解するのがすごく難しかったという。