ディズニー・ストア・ジャパンや日本GEプラスチックスなど、国際的な会社で要職を歴任し、グローバル企業数社で社長に就いた経験のある出口恭子さん。経済同友会が推し進める出張授業の講師として、中高校生と向き合う機会も多い出口さんに、米ハーバード・ビジネス・スクールなどでの経験を踏まえ、子どもたちに伝えたい思いを語ってもらった。
サバイバルの原則論を実感したハーバード時代
ハーバード・ビジネス・スクールは、全科目の授業が毎回ケースメソッドです。それが日本の大学教育との大きな違いだと思います。自分が経営者という立場に立ち、この模擬ケースの会社の舵取りをどうするか、といった議論を2年間で800ケース近く行います。私は、日本でディベートの経験を積んでおらず、すべての授業が英語で行われますので、最初はおおいに戸惑いました。しかも、アメリカ人だけでなく、ベトナム人や中国人といった英語を母国語としない多様な人たちが英語でディベートを行うわけです。
ケースメソッドでは、発言の上に発言を重ねていくことで議論の流れを組み立て、変えていきます。学生の評価は、発言の回数と質、その両方で決まります。ただ、発言の内容がどうであれ、声やボディランゲージなど言葉以外の表現力、そういったすべての引き出しを駆使することで議論の流れは大きく変わっていきます。声やジェスチャーが大きければ、何となくその人に引きずられて話が流れていってしまうのです。
今後、こういう人たちが大学院を卒業してさまざまな現場に入り、国際社会で交渉の場に立ち、会社を運営していく。近い将来、この人たちと渡り合わなくてはいけないのだ。自分をアピールし、自分の主張を通していくことの重要性を実感しました。それは、私が日本で最も受けてこなかった教育であり、欠落している部分だったのです。
教授に当てられるのは、体の大きい人や特徴のある人。見ためが平均的で目立たない人はあまり当たりません。それがフェアなのかどうか議論したのですが、ハーバードの教授はこう言いました。「それがフェアかどうかは自分で考えろ。世の中はこうなのだ。自分が平均的だから当たらない、アンフェアだと思うなら自分に尖った面を作れ、それがサバイバルだ」と一蹴されました。
ビジネス社会で生き残るためにはどうしたらよいのか、サバイバルの原則論のようなものを実感しましたし、何でも来いという気持ちになりました。日本で常識と思っていたことが他の国ではそうではない。この人とは常識が違うから話しても無駄だと考えてしまうのか、あるいは、そうした人たちも取り込んで対応できる柔軟性を自分につけようと考えるべきか、ここで大きく道が分かれるのだろうなと感じました。ハーバードで過ごした2年間は、非常に貴重な経験となりました。