夏は日が暮れた夕方7時から行います。なぜなら夏の日差しは強く、気温も地温も高く、朝や昼間の冠水では蒸発して、土の深いところまで均一に水が浸透しないからです。こうなると、生育が不均一になってしまいます。これを夕方に行うことで、地面の温度が下がり、冠水した水も蒸発量が少なくなり、夜間、土の中に均一に水分が広がっていき、生育も揃います。
逆に冬は朝日が出てから行います。冬は気温や地温が低いので、地温や気温を下げないことがとても重要になります。夏と同じように夜冠水をすると、日中暖まった土を冷やしてしまい、夜間の成長を抑えてしまいます。だから、朝、冠水をすることで、日光によって土が暖まり、そのまま夜も冷えることなくホウレンソウが生長するわけです(もちろん、このやり方は地域や施設、気候や条件によって違ってくるので、普遍的ではありません)。
どちらの時間帯も午前8時~午後5時ではありません。労働者の権利を主張して農業をしたら、当然よいホウレンソウはできません。良質なホウレンソウができなければ収入も少なくなります。それでは豊かな暮らしが成り立つわけがないのです。
生きものを扱う農業という仕事では、そのような権利は害になるだけでよい結果を生みません。作物のことを一番に思う愛情こそがよいものを育てるのです。同じようなことは、農業以外の職業にも言える場面がたくさんあると思っています。
誰もやらないことだからこそ
高付加価値になる
私たちの農場がある群馬県昭和村近辺は朝取りレタス発祥の地です。昭和村に隣接している沼田市利根町に、ヤマダイ物産という会社があります。そのヤマダイ物産の現会長が今から35年くらい前に、朝収穫したレタスをそのまま都内の高級スーパーに売り込みました。
朝収穫したばかりのレタスは新鮮で高い評価を受け、そのスーパーとの契約取引が始まったのです。毎日約束した量のレタスを開店前に届けるという、それまでにない販売と生産が一体となった仕組みづくりが始まったのでした。
生産者は朝というより夜中の2時くらいに起きて収穫を始め、朝6時にはトラックにレタスを積んで東京向けに出荷しました。今では日の出前にレタスを収穫するのは当たり前になっていますが、当時はいろいろ批判的な話も聞きました。