普通のサラリーマンにも相続税対策が必要となる可能性が高くなった今、富裕層はよりドラスティックな対策を講じる必要がある。富裕層にもいろいろな定義があるが、今回は相続税課税価格で5億円超の資産家について考えてみたい。

30年スパンで取り組む

 富裕層について、みなさんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。

 職業でいえば医師、弁護士を中心とした士業、中小企業経営者、代々の不動産所有者など。急成長したベンチャー起業家などを除けば、長い時間をかけて、時 には何世代にもわたって受け継いできた資産を保有して、それを次世代に引き継ぐのが自分の責務と考える人も少なくありません。

キャピタル・アセット・プランニング
代表取締役社長
北山雅一

 この層は、相続税を申告する人の5%程度にすぎませんが、日本全体の相続税の半分以上を納めています。ある年の法定相続人1人当たりの平均納税額は課税価格5億円超7億円以下でも3000万円、7億円超10億円以下なら4600万円にもなります。

 よりドラスティックな対策と書きましたが、子どもと孫への地道な資産移転が柱となるのはサラリーマンの場合と変わりありません。経営者であれば自社株を、それ以外の場合は現金などを、毎年こつこつと贈与し続けるのが、最もオーソドックスかつ確実な方法です。

 ただし、サラリーマンと富裕層で大きく異なる点があります。それは対策に必要な期間です。課税価格にして5億円以上の資産を短期間に圧縮したり次世代に移転したりしようとすると、どうしても無理が生じます。時間をかけて築いた資産の対策には相応の時間が必要と考えて、できれば30年スパンで取り組みたいものです。

正しい手続と証拠があれば調査も怖くない

 相続税の申告後、過小申告がなかったかどうかを調べる実地調査があります。いわゆる申告漏れで対象となる確率が高いのが富裕層です。実際、平成25事務年度(7月1日〜翌年6月末まで)に行われた実地調査のうち82.4%で何らかの誤りが認められていて、追徴税額は1件当たり452万円に上ります。

 申告漏れで多いのは、家族名義の預金や相続発生前後の預金の引き出し、そして有価証券の名義貸し、いわゆる名義株です。この名義株では、私も冷や汗をかいた経験があります。

 ある上場企業の創業メンバーの1人が亡くなり、計20億円ほどの財産を相続した相続人に調査の連絡が入りました。数十年にわたって子どもや孫の名義で売買されていたその会社の株式が、実質的には被相続人のものだったのではないかというのが税務当局の主張です。仮にその通りだとすると、相続税額は10倍近くに跳ね上がります。

 この窮地を救ったのは1枚の文書でした。相続発生の10年以上前に、被相続人やその妻、そして子や孫が持つ株式を拠出して社会貢献を目的とする財団を設立した際に主務官庁から発行されたもので、そこには受贈者として子や孫の名前がしっかりと記されていました。

 いくら税務当局とはいえ、他の省庁が真正な株主と認めたものを名義貸しと認定するのは困難です。この文書によって、追徴課税を回避することができました。

 この経験が教えてくれるのは、次の2つのことです。

 1つは、20年後、30年後の相続に備えて、収入の発生から資産の取得、再投資、贈与といったお金の流れに関する戦略を立てて、適切な手続を経て実行すること。そして、それを裏付ける証拠書類などをきちんと作成して保管しておくこと。

 この2つがしっかりとできていれば、税務当局の調査を恐れる必要はありません。